ロマ人キャンプでの「誘拐」騒ぎから見えた、欧州の闇

 先日紹介したギリシャのロマ人キャンプでの白人少女「誘拐」騒動は、未成年者誘拐の容疑で逮捕されたロマ人夫婦の供述通り、ブルガリアの夫婦から経済難を理由から預けられていたことが判明した。またこのギリシャでの出来事に反応するようにしてアイルランドでも、容姿の違いを理由に保護されていたロマの子供もDNA鑑定の結果は実子であることが判明。連続して欧州で起きたロマ人による誘拐疑惑は、どちらも冤罪であった。
 なぜこのような出来事が続けざまに、まるで何かに感染するかのようにして欧州内で連続したのか?
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 ・多発する幼児誘拐事件
 以前、日本在住の外国人の友人が日本のテレビで最も興味深いものとして、「はじめてのおつかい」を挙げて驚いた。その外国人の彼女曰く、4,5歳の少年少女が親の保護なしに知らない町へ遣いに出されるようなことは、欧州ではすぐさま通報され児童虐待事件として扱われると言う。 そもそも10歳以下の子供を家に一人で留守番させることも禁止されている地域もあるらしい。その理由は、幼児誘拐である。こういった話は、半ば都市伝説のようにして広がり、真偽を見極めるのは非常に困難になっている。しかしヨーロッパ全体としてはここ三年間で少なくとも2万人が人身売買の被害者となっていることが判っている。この数字は驚くべきものであるし、欧州全体にこの恐怖は植え付けられている。

 ・ロマへの根強い差別
 欧州における被差別民族としてはユダヤとロマが挙げられるが、両者の決定的な違いは、ユダヤが宗教を通しての民族的な団結とそれによる資本形成を可能にしたのに対し、ロマはそもそも民族的な分類が明確でなく徹底した個人主義と移動生活を営んでいたためロマ内での連携が皆無だったことだろう。結果はどうであれ大戦以後、ユダヤは欧州各国にたいして迫害の清算と代償を主体的に求めることが出来たが、ロマにはそれを行う母体がなかった。ロマもユダヤ同様にナチの虐殺を受け(ポライモス)、またスイスでも国策としてロマ根絶政策が取られたし、ルーマニアのチャウシェスク政権も同様だった。
 現代でも2010年にはフランスのサルコジ大統領が、不法滞在を理由にして大量のロマ人を出生国に強制送還させ問題になった。これがEUの理念である「EU内での個人の移動の自由」に抵触するとして非難を浴びるた。

 ・台頭する民族主義団体
  政治と経済は密接に連動する。経済の悪化の理由は安易に政治に求められるし、その政治の停滞もまた安易な非難対象を求める。その結果として民族主義は台頭する。フランスやイタリアやオーストリアでは民族主義的な傾向をもつ政治団体が、移民排斥を訴えて議席を伸ばし、その風潮はリベラルとされる北欧にまで広がっている。経済基盤が弱く、移民の流入も激しい南ヨーロッパでは特にその傾向は顕著で、ギリシャでも2012年の選挙の時には民族主義が社会主義と近づくという現象を生んだ。これは極右と極左は共通の敵の前では簡単に溶解することを示すと同時に、国内の人権問題は危険水域に達したことを意味する。

 ・人身売買と差別と政治問題
 上記3つの問題としての根深さを露呈した今回のロマ人による「誘拐」騒動は、ハーメルンの笛吹き男のような民話にも描かれる得体の知れない恐怖について、ロマという存在を無理矢理にその文脈に取り組むことで、一つの回答を得たつもりになっている欧州全体の思考停止を、如実に表している。
 仮に欧州が数カ国の経済力のみに依存する脆弱な連合体から、より安定的で自由で平和な全体になることを望むのであるなら、欧州内に蔓延るこの人権問題を避けては通ることは出来ない。なぜならこの問題で浮かび上がったように、人権問題とは、重要で複雑な問題への安易な思い込みの解答として提示させられるものであり、このような誤った解答を採用し続ける限り、問題は一向に解決されないのだ。
 今回の事件を、ただの行き違いで終わらせてはいけないと思う。

ジャンゴ・ラインハルト、彼もロマ=ジプシーだった。

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