【コラム】元仏代表アネルカ、“クネル”という反ユダヤ的ジェスチャーで罰則か?【解説】

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 イギリス・プレミアリーグのウェスト・ブロムウィッチ所属の元フランス代表FWのニコラ・アネルカ選手が28日に行われた試合でゴールを決めた後に行ったジェスチャーが今、物議を醸している。この問題は日本には全く馴染みがないものなので、ちょっと解説します。

アネルカはウェストハム戦で1点目を決めた後、フランスのコメディアン、Dieudonneが広めたとされる、反ユダヤのハンドジェスチャーを披露した。アネルカは2得点を記録したが、試合は3─3の引き分けに終わった。         

 ここに出てくるコメディアンのDieudonne=ドゥドネ氏とはアフリカ系コメディアンで、アネルカ選手とは個人的に仲が良く、その彼に捧げたものだと弁明している。

アネルカはツイッターで「ジェスチャーは友人であるDieudonneに、特別にささげたものだった」と説明。暫定的にウェストハムを率いているキース・ダウニング氏はアネルカの主張に理解を示し、「憶測はやめるべき。問題視することではない」と述べた。

 アネルカ選手が一体なぜそのようなジェスチャーを取ったのかはわかりませんが、そのジェスチャーは「クネル=Qunelle」と呼ばれており、ナチスの独特の、右手を突き出して左手を下げる敬礼のジェスチャーを反対にしたもので、下記の写真がそれに相当します。右手を下げて、左手を肩まで上げます。ちなみに彼がドゥドネ氏です。

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  このジェスチャーがクネルと呼ばれるもので、元々はナチズムを揶揄するものだったのですが、それが反ユダヤ的な文脈でジョークにも使われるようになり、最近では反ユダヤ的ジェスチャーとして認知されるに至っています。「Quenelle」と画像検索すれば、オバマ大統領や様々なセレブたちがこのジェスチャーをしている画像がヒットします。もちろんそれらは加工されたものです。

フランスのスポーツ相はツイッターで「アネルカのジェスチャーはショッキングな挑発であり、不愉快」と厳しく批判。「サッカーのグラウンド上で反ユダヤの言動を行うなど言語道断」とした。

 フランスではユーモアの対象とされる事象が我々の常識と比較すると大変に広いです。最近ではフクシマに関連した度を超した風刺画が日本でも取り上げられ外交問題にまでなったケースもあります。それでもその風刺画を掲載した新聞はあくまでユーモアの一環として謝罪はしませんでした。
 こういった感覚はなかなか我々には理解できません。しかし文化的水準が高いとされるフランスでは、差別とユーモアの線引きが非常に危ういものになっています。 時には文化という言葉で差別的な意図さえも吸収してしまうのです。

 ナチス・ヒットラーに占領されていた過去を持つフランスは、ユダヤに対して非常に鬱屈した感情を抱いています。実はナチスドイツ同様に過去にフランスでは反ユダヤ主義が吹き荒れたことがあり、今なおユダヤ人は差別の対象となっています。ここで注目すべきはクネルの考案者もアネルカ選手もともにアフリカ系フランス人ということです。アメリカほどではないにせよやはりフランスでも黒人は様々な面で不利益を被ってきた経緯があります。そしてその黒人たちがこぞって反ユダヤ的なジェスチャーを取ること。ここに弱者がさらなる弱者を探すという差別のスパイラルを見ることができます。
 フランスは100年以上前に、ドレフェス事件という反ユダヤ主義が生んだ冤罪事件を経験しています。 その事件後、フランスでは軍部への批判が高まり、民主主義が主導権を握ることに成功します。そしてその民主的な第三共和制はナチスドイツの侵攻まで続きます。こういった歴史の歪みはそのまま、今回のアネルカ選手の行動に直結しているように思えます。彼の弁明の通り、それは他愛もない理由から行われたものなのかもしれません。しかし他愛もない悪意ほどたちの悪いものもありません。
 ハンナ・アーレントが言うように、「本当の悪とは凡庸なもの」 なのです。

 今回の事件でアネルカ選手には出場停止も含む罰則が与えられる可能性があるようです。それがどのような意図であれ、政治的かつ挑発的な意味を帯びた行為をピッチ上で行うことは許されません。続報を待ちましょう。

追記2014/03/07:アネルカ選手はアフリカ系ではなく、両親は仏領マルティニーク出身でした。訂正いたします。

 参照記事:ロイター サッカー=FA、アネルカの反ユダヤジェスチャー調査へ

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