映画レビュー|『ハッピーボイス・キラー』-妄想が炸裂する悲しさ

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漫画家(バンド・デシネ)でもあるマルジャン・サトラピ監督作品で、『デッドプール』のライアン・レイノルズ主演の『ハッピーボイス・キラー』のレビューです。飼い犬と猫の声が聞こえてしまう不思議で不安定な青年がひょんなことから殺人をおかしてしまってさあ大変、という不気味でポップな猟奇系ブラック・コメディ。邪悪な 猫と誠実な犬と生首との間で揺れる殺人鬼をライアン・レイノルズが肩の力を抜いて演じたカルト作品。日本公開は2015年9月9日より。

『ハッピーボイス・キラー/The Voices』

全米公開日2015年1月6日/日本公開2015年9月19日/アメリカ映画/104分

監督:マルジャン・サトラピ

脚本:マイケル・R・ペリー

出演:ライアン・レイノルズ、ジェマ・アータートン、アナ・ケンドリック他

あらすじ(ネタバレなし)

バスタブ会社で働くジェリー(ライアン・レイノルズ)はちょっと不思議な青年。仕事は真面目で人当たりのいい彼だが、実は家では飼っている犬や猫の声が聞こえてしまい、精神にちょっとした問題を抱えていた。

過去に忌まわしい出来事を経験していたため定期的に精神科医と面談するも、ジェリーは先生の言うようにちゃんと薬を飲むことができない。実は飼っている猫のウィスカー氏は極悪で、薬を飲めばペットと会話できなくなり、彼は孤独になってしまうとジェリーを脅すのだった。一方、誠実でジェリーのことを心配する犬のブスコは彼のことを思って色々と忠告するも、ウィスカー氏はそれを鼻で笑う。

そんなジェリーだったが同僚のフィオナ(ジェマ・アータートン)に恋し彼女をデートに誘うも、その約束をすっぽかされてしまう。その帰り道たまたまフィオナと出会ったジェリーは、色々な偶然が重なり、彼女を殺してしまう。そしてジェリーはフィオナの死体を家に持ち帰り、バラバラにして首から上だけを冷蔵庫に保管した。すると生首のフィオナもジェリーと話すようになった。

精神に問題を抱えるジェリーは、自分がしたことの重要性をいまいち認識できないまま、極悪の猫と善良な犬、そして孤独を表明し友達になってくれる生首が欲しいとねだるフィオナの声に悩まされながらも、日常生活を送っていく。

しかし実はジェリーのことが気になっていた同僚のリサ(アナ・ケンドリック)と親しくなってしまうことで、日常にヒビが入っていく。

そして事態は恐ろしくシュールな方向へと向かっていく。

レビュー

現実が分裂し、妄想は炸裂!: 

『デッドプール』への主演が決定したライアン・レイノルズだがこれまでのフィルモグラフィーを覗いてみると、ロクな俳優ではないように見える。『アドベンチャーランドへようこそ』は例外としても、『グリーンランタン』や『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』など個人的には5年後には消えている俳優リストの上位に位置していた。同世代のイケメン俳優で名前が似ているライアン・ゴズリングとはえらい違いだとジョークにもされた。しかしその見方も本作『ハッピーボイス・キラー』を鑑賞すれば修正せざるをえないだろう。

ライアン・レイノルズ演じるジェリーは、普通ではない。おそらくは統合失調症を患っている。それでも社会の手助けのもとで一般的な生活を送ることができている。しかしある悲しい出来事のせいで親を亡くしており、友達もおらず孤独な生活を送っている。そんな彼にとって幻聴をもたらす統合失調症という病気は、ある面において、孤独を紛らわしてもくれることにもなる。その病気のおかげで(そのせいで)彼は飼い犬と猫と会話ができ、孤独を紛らわしてくれる。だから彼は医者から処方された薬を飲まない。飲めばこれまでの景色が一変し、犬や猫の声は聞こえず、部屋のなかは散らかり、その孤独に耐えきれなくなってしまうのだ。

孤独で閉じた世界のなかでジェリーは何とか生きようとした。薬は確かに病状を和らげてくれるが、彼が抱えている本当の病とは、孤独なのだ。だから彼は孤独から逃げるために、病気であり続ける。ジェリーにとって精神の病よりも孤独のほうがずっと怖いのだ。

しかしジェリーはある女性に恋をしてしまう。恋は彼を、住み慣れた閉じた部屋から引き出す格好となり、そして誤って彼女を殺してしまったことから事態は一変する。世界はもうジェリーを閉じた部屋に篭ったままでいることを許してはくれない。ジェリーが望んでいた孤独から抜け出す機会は、皮肉にも、彼が孤独ゆえに誰にも語らずに済んだ彼の異常性までも白昼にさらすことになる。

この引き裂かれるように背反する精神の苦悩をコメディで描き切った『ハッピーボイス・キラー』は間違いなくライアン・レイノルズのキャリアにプラスになるだろう。名前が似ている若き名優ライアン・ゴズリングが『ラースと、その彼女』でダッチワイフを恋人と信じ込む青年を演じ絶賛されたように、ライアン・レイノルズは動物や生首と会話ができる心優しき殺人鬼を見事に演じきった。しかも『ラースと、その彼女』は設定は奇抜でも内容は真面目なドラマ映画だったのに対し、本作『ハッピーボイス・キラー』はコーエン兄弟が書いた物語のようにシュールで、悪趣味で、しかしポップでカラフルな、その配分調整を少しでも誤れば全てが悪ふざけに見えてしまう危険性をはらんだギリギリの物語だ。そしてそのバランスを担ったのは間違いなくライアン・レイノルズの演技と、マルジャン・サトラピ監督のフランス的ユーモアだ。

マルジャン・サトラピ監督はイラン出身でフランスで活動する漫画家(バンド・デシネ)でもあり、その出自は、彼女の漫画作品でもあり後に自身が監督を務めることで映画化もされている『ペルセポリス』に詳しいが、彼女の独特のユーモアとバランス感覚はおそらくは彼女が経験したアイデンティティー・クライシスに多くを由来する。本編のラストに登場する性転換したと思われる「彼(It)」は、イラン出身でフランス語で教育を受けた彼女だからこそできる、とんでもない離れ業だった。とにかく最高にぶっ飛んでいる。

邪悪な猫と優しい犬が登場し、バラバラ殺人があり、生首がしゃべりだし、悪気なく次々と人を殺してしまう根はいい青年が主人公のブラック・コメディと言われてもピンと来るわけないが、それでもただ不謹慎だけを強調する類の映画ではなく、精神の病の本質を描き出すことにも成功している作品だ。

これまでライアン・レイノルズが吸血鬼相手に戦ったり、幽霊を逮捕したり、地球を守る緑の勇者になったりした過去も、本作を経由して『デッドプール』に至る道の途上だったのかと思うと感慨深くなる。とにかくライアン・レイノルズの怪演に注目、そして『デッドプール』の予習にはもってこいの作品。純粋に面白かった。

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ということでライアン・レイノルズ主演の『ハッピーボイス・キラー』レビューでした。日本公開はないだろうと持っていたら、急転直下、2015年9月19日よりこ劇場公開が決定。素晴らしいです。特にコーエン兄弟の作品を好む人はお見逃しないように。グロいシーンもありますが、あくまでコメディ、腹抱えて笑ってしまうこと間違いなしの快作。おすすめです。以上。

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