映画レビュー|『不屈の男 アンブロークン』-最高のスタッフによる平均的ドラマ

アンジェリーナ・ジョリー監督作『不屈の男 アンブロークン』/Unbroken』のレビューです。日本では映画公開前からその内容を巡って「反日映画」という烙印を押された挙句に、劇場公開が見送られた作品。「赦し」からの再生を、戦争の時代に翻弄された一人の陸上選手の半生を通して描き出す、「反日」描写などどこにも見当たらない真っ当なドラマ映画。

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『アンブロークン/Unbroken』

全米公開2014年12月25日/日本公開2016年2月/アメリカ映画/137分

監督:アンジェリーナ・ジョリー、

脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、リチャード・ラグラヴェネーズ、ウィリアム・ニコルソン

原作:ローラ・ヒレンブランド著『Unbroken: A World War II Story of Survival, Resilience, and Redemption』

出演:ジャック・オコンネル、ドーナル・グリーソン、ギャレット・ヘドランド、MIYAVI(石原貴雅)他

あらすじ

子供の頃から逃げ足だけは早かったルイス・ザンペリーニは、兄の影響もあり陸上をはじめ、やがてはベルリン五輪にアメリカ代表選手として参加するほどになる。

しかしその後世界情勢は一気に悪化し、アメリカも第二次大戦に参戦、ルイスもB-24の乗組員として南洋での戦闘に参加していた。そしてある日、海洋上で行方不明になった仲間を捜索するために空を飛んだ一行だったが、飛行中にエンジンが停止し海洋上に不時着する。何とか生き残ったルイスと他2名は漂流生活を迫られる。

乾きと飢え、そして飛来する日本軍の戦闘機からの銃撃のなか、やがては一人の仲間が息絶える。そして漂流生活47日目にふたりは日本軍に発見され、そのまま捕虜となる。

日本に連れてこられたルイスは自身が五輪選手であるということから、異常なまでにサディスティックなワタナベ軍曹の目の敵にされ、非情な扱いを受ける。

戦争の時代に翻弄されたルイス・ザンペリーニは不屈の闘志で、先の見えない絶望的な日々を耐え抜いていく。

レビュー

最高のスタッフによる平均的感動ドラマ:

まずこの作品をレビューする前に避けられないのが、「反日」云々の論争で、そもそもは東宝東和によって配給されることが決まっていながらもネットや一部週刊誌が、映画を観もしないで、「日本軍の描写が反日的」というキャンペーンを行った結果、何をビビったのか劇場公開が中止されるという事態になった。そういった反発が生まれた背景には、原作に日本軍が人食を行ったとする描写があったためとされているが、映画にはその描写はない。原作を読んでいないのでその内容を判別はできないが、原作が「反日」的であればどれほどバランスを考慮した修正が行なわれようともその中身は一切考慮されずに、波及作品もまた「反日」ということになるらしい。つまり最初から結論が用意されているということ。

本作を「反日」映画とバッシングした方々と違って不肖な私は原作を読んでいないので、この映画からしかその内容を判断できないが、少なくともこの『アンブロークン』に反日的な要素は感じなかった。もちろん日本軍による捕虜虐待が描かれるため日本人としては苦い想いがあることは事実だが、そこで描かれる悲惨さとは、例えば日本兵がシベリアで経験した抑留生活と比べると随分と穏やかなものとして描かれている。そして何より重要なことが本作では主人公に虐待を加えるのは日本軍ではなく、そこに所属するワタナベ軍曹であることが強調されている。つまり組織や国家の暴走というよりも、異常な環境下で権力を与えられた 者が往々にしてサディスティックな傾向に陥るという、心理学的には広く認められている人間の本質的弱さを描いている。そして当事者のワタナベ軍曹は、戦後にその責任から逃げ回った挙句に、やっと自身が捕虜に行った虐待の不当性を認めているのだ。当人が認めた事実を描いたら「反日」と言われて劇場公開が中止に追い込まれるという事態はまさに、世界から見れば、日本の恥、「反日」的な出来事としか思えない。

ともあれ、「反日」論争はここまでにして映画そのものの印象に移ると、非常に感動的で平均的なドラマ映画というものだった。確かに本作が実話に基づいているということは物語を強化してはいるが、戦争を背景とし主人公の不屈の精神を描くというストーリーラインは、戦争映画の、とりわけ捕虜生活を描く作品ではお馴染みなので、本作の評価はその類型から抜け出せるかということにかかっていた。

その一環としてコーエン兄弟を脚本に迎えるも、ストーリー部分では冒険の跡は見当たらない。構成において、漂流生活と捕虜生活という二つの、状況の変化を待つだけしか許されない極限を、過去の栄光を織り交ぜながら描くという手法も、さほど真新しいものではない。しかし映像は飛び抜けて美しかった。きっとコーエン兄弟をこの映画に関わらせた最大の功績は、コーエン映画でお馴染みのロジャー・ディーキンスに撮影を任せたことだろう。特にオープニングの シークエンスは息をのむほど美しく、そこから描かれる過酷な運命への入り口としては、非常に示唆的である。

またテーマも至ってシンプルにキリスト教的な「赦し」を扱っている。しかもそのテーマに深く関わる主人公の経験を物語の序盤にわざわざ神父に語らせたりもする。作品の主たるテーマをセリフとして扱う場合は慎重に行われるべきで、そうしないと作品が一気に説教臭くなる。せっかく主人公のクリスチャンとしての「救い」の描写を最小限に留めて、宗教性を薄めることに成功していた分、もったいない。

それでもラストは非常に感動的にうまく纏められている。それがロジャー・ディーキンスの美しい映像と、アレクサンドル・デスプラの完璧なスコアにほとんどを依存しているとしても、しっかりと観客の感情を揺り動かしてくれる。そこに日本人とかアメリカ人とかは関係無い。そういうことを描いている作品ではないのだ。

平均的な物語ではあるも、最高のスタッフによって感動的に仕上げられた物語。「赦し」とは被害を被った側からなされるもので、被害を与えた側がその可否を論じることの愚かさが浮き彫りになった作品もである。

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ということで『不屈の男 アンブロークン/Unbroken』のレビューでした。最大の見所(聞き所?)はロジャー・ディーキンスの撮影とアレクサンドル・デスプラの抑揚の効いたスコアで、その次がMIYAVIの嫌らしい演技です。英語も堪能で、ワタナベ軍曹の背景を描かずとも、彼の捻れた性格をうまく演じていました。俳優陣では主人公よりも目立っていました。日本ではいつDVDでも鑑賞できることになるのでしょうか。ちょっと残念です。

追記:本作は『不屈の男 アンブロークン』という邦題で2016年2月に日本公開が決定しました。

※次のページにネタバレのストーリー紹介※

Summary
Review Date
Reviewed Item
屈の男 アンブロークン
Author Rating
3
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