映画レビュー|『トレインレック/TRAINWRECK』-こじらせ女子の美しき暴走

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『トレインレック/TRAINWRECK』

全米公開2015年7月17日/日本公開未定/アメリカ映画/124分

監督:ジャド・アパトー

脚本・エイミー・シューマー

出演:エイミー・シューマー、ビル・ヘイダー、ブリー・ラーソン、レブロン・ジェームズ他

あらすじ(ネタバレなし)

幼少の頃に父親から一夫一婦制の愚かさを聞かされていたエイミー(エイミー・シューマー)は大人になって雑誌編集者として働き出しても、夜な夜な男をひっかけては一夜限りの自分本位な関係をもって過ごしている。

妹は結婚し子供もいるなか、エイミーは自由な日々を送っているもののどこかしっくりこない。そんな折り、雑誌の企画でスポーツドクターであるアーロン(ビル・ヘイダー)を取材したエイミーは、流れのままで彼と一晩を共にする。彼女にとっては遊びでも、アーロンにとってはエイミーは徐々に特別な存在へと変わっていく。

アーロンの想いを知りながらも、自分に正直に生きるエイミーは周りと軋轢を生んでいくことになる。こじらせ女子エイミーは悪戦苦闘のなかで、望む幸せへと近づくことができるのだろうか。

レビュー

こじらせ女子の美しき暴走:

ジャド・アパトーが監督と製作を担当した最新作『トレインレック/TRAINWRECK』は彼のコメディラインのなかでは、2011年の『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』で描かれたような現代的な女性の在り方を描いており、また脚本と主演を担当した若手コメディアンヌのエイミー・シューマー実体験をベースとしている。これまでジャド・アパトーの映画からはスティーブ・カレルやセス・ローゲンなど多くのコメディアンが表舞台で活躍するようになったが、本作の主人公エイミー・シューマーもまた今後映画やドラマでの活躍が大いに期待されるひとり。

本作のタイトルである『トレインレック/TRAINWRECK』という言葉が列車事故という本来の意味から派生して「大惨事」といった意味を持つように、自分なりの生き方をこじらせた主人公の度重なる衝突事故をシニカルに、そしてリアルに描いている。

主人公エイミーは雑誌編集者として働きながらも夜な夜な違う男と過ごしては、それを現代的な自分の生き方だと信じている。そして本作の肝心が、エイミーは一夜限りの関係こそが自分のライフスタイルだと自分に言い聞かせるも、実はそれ以上の決定的な関係へと発展することを恐れている、いわゆるこじらせ女子であるということ。自分本位なセックスや、徹底した自己優先の男女関係、そして他人の意見に耳を貸そうとはしない独善性など、恋愛映画というフォーマットの主人公としてはかなり異例の人物設定となっている。しかもエイミーは恋愛という過程そのものを望んでいない。おまけにアル中気味で、見境なしに男をたらしこみ、しまいには未成年の少年にまで手を出してしまう。

きっと本作の序盤を観れば男女問わずきっとこう思うはずだ。こんな女とは付き合いたくない(友達にしたくない)、と。

エイミーの過激な設定以外にも本作には露悪的な表現が満載で、必要もない膝の手術シーンを結合部丸見えで映したりする。これはポール・フェイグ監督による一連の女性主役映画にも見られるスタンスだが、「表面的な軋轢からやがてはお互いを理解して幸福へと至る」というこれまでの恋愛映画の「クリシェ」の大枠だけは借り受けながらも、細部では徹底的に従来の恋愛映画要素を排除している。まるでこれまでの恋愛映画で描かれていた女性とは男性の妄想の塊でしかなく、加えてそこで描かれる男性もまた過剰に美化された男性像の寄せ集めでしかないと言っているようで、「恋愛=ロマンティック」という等価性自体を否定してようとしているようにさえ思える。特に逆説的なエンディングを見ればわかるが、一見すると馬鹿げた破壊的コメディと思われる本作も、実は非常に頭がいい作品であることがわかる。

確かにエイミーは問題のある女性だ。正直であることと露悪的であることの違いをうまく理解していないバカだし、何にせよいつも一言余計なことを言ってしまい他人を平気で傷つける。決して美人ではないくせに、男にうるさく、セックスも自分が気持ちよくなるための行為としてしか考えていない。自分でこさえた問題が扱いきれなくなると、決まって酒に逃げる。自分が批判される前に誰かを非難し、そのくせに昇級という餌につられて上司からの無理難題を引き受ける。正直、この女ろくでもない。そして最大の問題が、実際にこういうろくでもない女が幅をきかせる社会が実際に存在してしまっているということ。男として怒りさえ覚えるような女なのだ。

という感想は男性が思う正直なところだと思う。しかしよっぽどのバカではない限り、本作を最後まで見届ければ上述したような感想によって我が身を振り返らざるを得なくなるだろう。確かにエイミーは問題のある女性かもしれない。いや、どう見ても問題がある。それでも彼女が私生活を通して様々な問題に出くわし、その度に悪戦苦闘が強いられる理由として、彼女の性格云々の以前に、彼女が女性であるからという性差が透けて見える。つまりエイミーのような男は今現在でも決して珍しくないし、そんな男でも社会的な地位を築くことが可能であるのに関わらず、どうしてエイミーだけはこうも周りから非難されなくてはならないのかと、気がつくと同情さえしてしまうのだ。エイミーを女性と観る場合彼女はロクでもない女と言われるが、彼女のような言動を男が行った場合は、また違った反応となることが示唆されている。非常に不思議な現象だが、男であってもエイミーの悪戦苦闘に思わず感情移入してしまい、彼女が正直にロクでもないことを理由に彼女に共感してしまうことにある。つまり序盤でエイミーのことを散々蔑んだ感想は、最後にはエイミー的な言動に心当たりのある多くの男性に向かって、ブーメラン、ブーメランなのだ。

全体的な構成も非常にスマートで挑戦的だが、それ以上に本作は細部が本当によくできている。いわゆるギャグという大げさな笑いどころはほとんどなく、コメディとしての要素は会話の細部や仕草や表情のなかに宿っている。特に有名アスリートからの信頼篤いスポーツドクターを演じるビル・ヘイダーの、ジム・キャリーを大人しくさせたように自然な演技は好感を抱かせる。そして彼の親友役としてNBAのスター選手レブロン・ジェームズも出演しているのだが、彼の演技も一見の価値あり。とても自然で、レブロン主演で噂される『スペースジャム』の続編も大変期待できる。ちなみに物語の発端がスポーツということもあって、アメリカのスポーツ事情を全く知らないとポカーンとなるシーンも多いかもしれない。それでもエイミーもまたスポーツに関心のない女性として登場するので、レブロン・ジェームズを見てもポカーン の方が本作には向いているのかもしれない。

そして『少年は残酷な弓を射る 』で年上キラーぶりを遺憾無く発揮したエズラ・ミラーもすごいことになるし、筋肉バカの代表としてプロレスラーのジョン・シナが出演し笑わせてくれるし、エイミーの嫌味な上司役のティルダ・スウィントンも女性雑誌編集長としてのおかしな矜持を見せてくれている。他にもダニエル・ラドクリフとマリサ・トメイの謎の出演シーンがあったり、コメディとしては長い尺も飽きることはない。

ポール・フェイグとメリッサ・マッカーシーのタッグ作『スパイ/SPY』評のなかでも言及したが、恋愛映画に限らず女性視点の映画製作がブームであることは間違いなく、問題はこの流れが定着するかということ。これがなかなか難しい問題で、興行的には男性を敵に回すような過激で正直なテーマは避けたいところだろうが、男性客に迎合するようではそれこそ一過性のブームで終わってしまうだろう。その点において、本作はR指定ながらしっかりとヒットを記録していることからも、ジャド・アパトーがこれまで描いてきた美男美女以外の恋愛指南に効果があったことが証明されたと言えるかもしれない。

本作はジャンルとしては不思議な恋愛コメディということになるのだろうが、このろくでもないこじらせ女子が様々な自業自得の騒動を経験しながらも、自分の生き方を簡単に曲げることなく人生と折り合いを付けようと試行錯誤する姿は、不思議と美しかった。

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ということで『トレインレック(仮題)/TRAINWRECK』のレビューでした。日本公開は未定ですが期待したいですね。これはおすすめです。きっと日本で紹介されるときには、然もありなんな邦題が付けられることになるのでしょうか。そしてエイミー・シューマーもここからコメディアンヌとして映画にも活躍の場を広げそうです。彼女の場合は脚本も書くので、今後に期待できます。ここ数年に一挙にアパトー周辺から登場したコメディアンヌの活躍は、それこそセス・ローゲンやジョナ・ヒル、ジェイソン・シーゲルと登場と重なります。とにかくおすすめです。以上。

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TRAINWRECK/トレインレック
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4
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