【映画】『ホームズマン/The Homesman(原題)』レビュー

トミー・リー・ジョーンズ監督、主演作『The Homesman』のレビューです。男の欲望が支配する開拓時代の西部を舞台にしてトミー・リー・ジョーンズが紡いだのは、ただの道具として抑圧される無名な声なき女たちの悲壮な叫びでした。トミー・リー版の『許されざる者』である本作、男にとって観るのが辛い西部劇ですが、現在の日本でこそ観られるべき意欲作です。

The Homesman quad

■ストーリー、前半■ ※ネタバレなし

1850年代のアメリカ開拓地ネブラスカ領に一人で暮らす女性メアリー・ビー(ヒラリー・スワンク)は音楽が好きな31歳。厳しい西部開拓地の荒野でひとりで馬を飼いながら暮らしている。彼女が暮らす地域には数えるほどの家族しか住んでおらず、なかなか夫となる男を見つけられないでいた。

厳しい荒野の暮らしの中で、家族を持つ他の女性たちの多くは心を病んでいった。一人は伝染病で家畜を失ったことから、一人は若くして生んだ3人の子供を次々と病気で失ったことから、そしてもう一人は夫からの性の道具のような扱いを受けつつも孤独に母親の看病に追われながら、それぞれの精神は壊れてしまう。

地域の相談役である牧師の元に集まった村人らは、3人の壊れてしまった女性をネブラスカより拓けた中西部のアイオワに暮らす牧師の妻の住むところまで送り届けることを決定する。そして道中でのインディアンの襲来や厳しい自然環境などを考えると勇敢で馬の扱いに慣れた“男=ホームズマンHomesman”が必要であったが、ここにはそんな人物は誰もいない。そこで家族のいないメアリーは自分がその役を請け負うと申し出る。

そして彼女は遥か彼方のアイオワまで一ヶ月にわたる旅に出る。

その途中、メアリーは馬に乗せられた状態で木から首に縄で繋がれていた老いた男を発見する。そしてメアリーは男を助ける代わりにアイオワまでの旅に同行するように交換条件を出す。男の名はジョージ・ブリッグス(トミー・リー・ジョーンズ)。開拓地で他人の土地を巻き上げる小悪党だった。

そしてメアリーとブリックスは3人の狂った女を届ける旅へと出る。

■レビュー■

2005年にカンヌ映画祭で男優賞と脚本賞を受賞した『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』に続く、トミー・リー・ジョーンズの監督主演作は、これまでにない過酷な西部に生きる女たちの現実を映した作品となった。

西部とは、開拓地とは、突き詰めればアメリカン・ドリームとは、長く男たちの夢の舞台だった。そこでは過去は一切問われず、勇猛さと運さえあれば誰もが人生を逆転できる、そんな場所だった。ジョン・フォード、ハワード・ホークス、ロバート・アルドリッチといった西部劇の巨匠たちは、そんな西部の姿を通して現代の人々の心象風景を描いてきたが、それらは多くの場合、男たちの物語であった。

しかし本作はそういった西部劇とは全く違う意図によって製作されている。これまで語られてきた男たちの西部劇の影で、意図的に隠されてきた女たちの姿を本作は真正面から描く。男にとっても過酷である西部は女にとってはより過酷であるという当たり前の事実をトミー・リー・ジョーンズは、劇中で道化師のような男を演じながら描いてみせた。

トミー・リー・ジョーンズは本作を「現代を映した西部劇」と表現している。男の無知と無理解が引き金となって精神を乱していく女、そして彼女らを献身的に保護する勇敢な女。両者の対比は、今日の社会のなかでの女性像を如実に現している。2011年公開の映画『Meek’s Cutoff (日本未公開)』が西部劇を舞台にした現代アメリカ社会全体の鏡のような作品だとするのなら、本作はより「ジェンダー」の問題にフォーカスしている。女性の不利益の原因となっていながらもその問題と真剣に向き合おうとしない男たちの浅はかさと不寛容さを、トミー・リーが体現してみせるラストは圧巻だった。

本作は決して見やすい作品ではない。途中に真正面からその一部始終を見せられるひとりの女の自傷シーンでは、スクリーンを凝視し続けることができなかった。そして物語の終盤に差し掛かったところでおきる衝撃的な展開も非常に辛い。勇気あるものが、その勇気を推進力にして絶望へと至ってしまう流れは、まさに声を失われた女性の叫びそのものなのだろう。

カット割りがあまりに唐突で時制を把握するのが困難なシーンがいくつかあったり、狂っていく女の背景描写が淡白だったり、ラスト近くに豪華出演者が連続して出演するなど映画としてのバランスには不満もある本作だが、少なくとも映画作家としてのトミー・リー・ジョーンズが描こうとした物語の本意は上手く表現されている。

この映画を現在の日本に置き換えてみた場合、「強制性」という一言の定義問題に終始し、本来議論の中心であるべき「女性の苦悩」が完全に無視されている件の無意味な論争を思い出す。そしてその滑稽さは本作のラストシーンと完全に重なり合うように感じた。

現代のアメリカ西部とは開拓時代に作られた無数の墓の上に作られている。本作には、そんな大地テキサスで生まれ育ったトミー・リー・ジョーンズによる、忘れ去られていった無名の女たちへの鎮魂と深い哀悼が含まれているように感じた。

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※次のページにストーリー後半のネタバレあり※

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