映画 『シュガーマン 奇跡に愛された男』レビュー “真実の本質を映したドキュメンタリー”

 2012年製作のドキュメンタリー映画、日本でも2013年3月に公開され一部で話題にもなった本作だが、今更ながらDVDで観た。ドキュメンタリー映画としては致命的とも思える欠点を抱えながらも、不思議な感動が物語終盤からじわじわとしみ込んでくる秀作。これは人それぞれだと思うけど、ドキュメンタリー映画は家でじっくりと観るのもいいです。

Searching For Sugar Man

Searching For Sugar Man

ストーリー1970年代、白人と非白人との間に厳密な規定を設けた人種隔離政策“アパルトヘイト”に国際社会から孤立する南アフリカにあって、反アパルトヘイト運動の象徴として歌われていた歌があった。その歌を歌うのはロドリゲスと呼ばれるアメリカ人シンガー。“シュガーマン”とも呼ばれたそのアメリカ人シンガーとは一体何ものなのか。彼の母国アメリカでさえ彼にまつわる情報は皆無だった。そしてまことしやかに囁かれる噂。彼はステージでガソリンを浴びて焼身自殺をしたのだ、ピストルで頭を自ら撃ち抜いたのだ、とにかく彼はもう死んでしまったんだ。
 全く無名のアメリカ人シンガーが地球の反対側の南アフリカでは、ローリング・ストーンズやドアーズを凌ぐ知名度を誇り、ビートルズやサイモン&ガーファンクルのアルバムと同じように扱われる。そんな信じられないような話は、90年代後半、一つの奇跡となる。

Sugarman

Sugarman

感想世間から忘れ去られたミュージシャンの物語となればどうしても2009年の『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』を思い出す人も多いだろう。しかしこの『シュガーマン』と『アンヴィル』とではドキュメンタリーという視点においてほとんど両極にあるといってもいいほど違うものに仕上がっている。まず『アンヴィル』が物語の全編においてカメラが同行していること。取材という行為が物語の内部に位置し、そこに写っている物語が当然のことながらカメラの存在を前提にしている。もちろんだから『アンヴィル』がドキュメンタリーと呼べないと言っているのではなく、『アンヴィル』の物語が“ドキュメンタリー映画として語られることを必要としていた”と言い換えられる。そして現在、ドキュメンタリーというジャンルが特にアメリカやヨーロッパで確固たる商業的地位を築いた背景には、真実の物語とそれがもたらす圧倒的な説得力に観客がフィクションにはないカタルシスを感じるからである。しかし同時のその魅力は作られたフィクションとの比較において語られるという独立ジャンルとしての危うさも感じる。
 一方この 『シュガーマン』で語られる物語と、それを映す映像の意図は全く一致しない。時系列的に若干こじれているのだ。まず映画のなか最初の語られるのは反アパルトヘイト闘争の時代とロドリゲスの歌が南アで歌われた背景、これは1970年代が主だ。物語はそこから出発し、クライマックスを1998年の南アフリカで迎える。そしてこの映画が作られたのは2102年であるということは、映画を作ろうと至った段階で現実世界ではすでにその物語はクライマックスから14年も経過していた。つまりこの物語はドキュメンタリー映画として語られることを前提としていない、将来の観客が感じるカタルシスの存在などそもそも念頭にはない、本当の意味でのドキュメンタリーとしての“真実”を描いているのだ。その反動として、『シュガーマン』のなかの映像は結構ひどい。一番のカタルシスを生む場面が、粗い、手持ちの家庭用カメラの、しかも明らかに素人が撮ったような構図にパンにカクカクのズーミング、で表現されており、プロの撮影クルーがその瞬間を手ぐすね引いて待っていた『アンヴィル』の映像とは全く対照的である。
 などと『アンヴィル』との比較において 『シュガーマン』がもたらすドキュメンタリー映画としての感動を分析してみたが、でも結局のところ私が『シュガーマン』に思わず涙したのは、物語の構造的要因からではなく、単純に“シュガーマン”ことロドリゲスの、実際に起こった奇跡のような出来事さえも日常の延長として達観する、不思議な人生観に心打たれたからだろう。
 物語の序盤にロドリゲスを知る人物が彼を評して、「奴は根っからの流れ者だよ」というシーンがある。もしこの奇跡のような出来事がロドリゲスじゃない誰かに起こっていたのなら、私はこれほど感動しなかったのではないだろうか。 彼が根っからの流れ者だからこそ、奇跡には続きがあり、我々が望めばその奇跡の続編に触れることが出来る。

クラレンス・アヴァント

クラレンス・アヴァント

 余談となるがこの映画に、モータウンの大物でサラ・ボーンやマイルス、ジミー・スミスとの仕事でも知られるクラレンス・アヴァントが出てくるがかなり感じ悪い。というかめちゃめちゃ怖い。一見すると優しそうな黒人のおじいちゃんが急に凄みだすともう迫力満点である。

ロドリゲス

ロドリゲス

 とまあ、はっきりいってかなりおすすめである。そして音楽も実にいい。ロドリゲスは人種的な部分やボブ・ディランのフォロワーという形で世間からは見向きもされなかったのだろうと思うが、この手の音楽すべてをそういった論法で評価するとなると80年代以降のアコースティック・ポップス全般が無意味なものになってしまう。もちろんそんな訳もなく、現在になって、この映画のおかげでロドリゲスは再評価されるようになっている。それも含めて本当に自然体で感動的なドキュメンタリー映画だった。自分の部屋でちょっと奮発したウィスキーでも飲みながら観てもらいたい一作です。

 

映画 『シュガーマン 奇跡に愛された男』 DVD/Blu Ray

映画 『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』

 

 

 

 

 

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