『サウスポー』レビュー/ジェイク・ジレンホール主演

ジェイク・ジレンホール主演、アントワーン・フークア監督作『サウスポー』のレビューです。事故で愛する妻を失ったボクシングの元チャンピョンがどん底から再び這い上がってリングに立つ姿を描く。共演はレイチェル・マクアダムズ、フォレスト・ウィテカー、50セントなど。ジェイク・ジレンホールの狂気の演技に注目。

Southpaw

『サウスポー/SPUTHPAW』

全米公開2015年7月24日/日本公開2016年6月3日/アメリカ・中国/123分

監督:アントワーン・フークア

脚本:カート・サッター

出演:ジェイク・ジレンホール、フォレスト・ウィテカー、レイチェル・マクアダムズ、ナオミ・ハリス他

あらすじ(ネタバレなし)

ライトヘビー級チャンピョンのビリー・ホープ(ジェイク・ジレンホール)は妻(レイチェル・マクアダムズ)と一人娘と一緒に贅沢な暮らしを送っているも、妻は毎試合ごとに顔をボコボコにして戦うビリーのことが心配でたまらない。そして妻の心配と呼応するように、ビリーの体は悲鳴あげるようになっていた。

ある日、ボクシングのチャリティイベントに参加したビリーは、そこでコロンビア出身のライバル選手の挑発に乗って乱闘騒ぎを起こしてしまう。その時、乱闘に入ってきた男が持っていた銃が暴発し、ビリーの妻に被弾してしまう。そして彼女は死んでしまった。

絶望のなかビリーは酒とドラッグに溺れ、やがては自分を保っていられなくなってしまう。結果、愛娘を育てる資格に足りないと判断され、娘と離れ離れの生活を余儀なくされる。

歯車が狂ったビリーは、孤独の中、亡くした妻のため、そしてもう一度娘と暮らすため、気難しい老トレイナー(フォレスト・ウィテカー)が運営するジムのドアを叩く。そして場末のジムからビリーは再起をかけて因縁のライバルとの対決に挑むのだった。

レビュー

ボクサーのなかでも観客をもっとも魅了するタイプといえば、倒れても立ち上がり殴られても前に出て行く「ブル・ファイター」だろう。スコセッシの『レイジング・ブル』で描かれたジェイク・ラモッタ、『ザ・ファイター』でマーク・ウォールバーグが演じたミッキー・ウォード、そしてスタローンのロッキーもそういうタイプだ。相手のパンチを避けようともせずに果敢に相手に向かっていくタイプの彼らは、観客から圧倒的な支持を受けるも、パンチドランカーの悲劇と常に背中合わせの状況にある。

頭部への衝撃が原因とされる脳障害疾患を患うボクサーや格闘家をパンチドランカーと呼ぶが、ボクサーの晩年に多く見られるアルツハイマーやパーキンソン病、認知症などの病気にはそれが疑われる。本格的な認知障害の現れる前には激しい鬱状態や暴力性などの人格障害も散見されるという。そして本作『サウスポー』の主人公ビリーもまたパンチドランカーとしての未来と背中合わせでいる。

本作は『トレーニングデイ』や『イコライザー』のアントワーン・フークア監督と、近年エキセントリックな演技が絶賛されているジェイク・ジレンホールのタッグ作となっている。話は予告編を見れば大体わかるだろう。ボクシング映画の多くがそうなように、本作も挫折からの再起をボクシングのリングに求める男たちの姿を描いている。

主人公のビリー・ホープはライト・ヘビー級の統一チャンピョンだが、メイウェザーに象徴される現代のボクシングの流行である「打たせないボクシング」とは正反対の、KOされてリングに寝そべる敗者よりも勝者の方が顔がボコボコになっている、いわゆる「ブル・ファイター」。つまりはパンチドランカー候補選手ということになる。毎試合ごとに文字通り命を削る夫のビリーを心配する妻だが、ビリー本人には自分がパンチドランカーであるという自覚はない。彼からすればボクシングで殴られることは当たり前であって、それこそが彼自身のスタイルだと信じている。しかし、偶然の悲劇によって妻を失ったことでビリーは、アルコールと薬物に溺れ、暴力的な傾向に拍車がかかり、やがては最愛の愛娘を施設に取り上げられてしまう。ここからビリーは失った娘だけでなく、死んでしまった妻、そして自分自身さえも取り戻すために、もう一度リングにあがるために、昔世話になったことのある場末の老トレイナーに師事する。そして殴られることを本望とする自分のスタイルを捨てることを決意するのだ。

どん底を味わった過去のチャンピョンが、再び栄光を取り戻すために一から出直す。この手のストーリーラインは、細部での違いはあれ、ボクシングやスポーツ映画の基本的な流れとなっており、本作もそれを踏襲している。デイヴィッド・O・ラッセルが『ザ・ファイター』でミッキーの兄を映画の重要な視点として描いたような挑戦や、『ミリオン・ダラー・ベイビー』のような虚無的な現実感は本作ではほとんど見られず、映画の中盤くらいには大体の終わりが見えてしまうことになる。しかしそういった類型的な設定を逆手にとって衝撃的なプロットを用意しているのかといえばそんな訳でもない。ただ当然のように、既視的な話が最後まで続いていく。

そして映像では手持ちの多様やボクサー視点で混濁するイメージなど様々な工夫を凝らしているが、それらはあくまで小手先であってどうという訳ではない。それよりもジェイク・ジレンホールの鍛えげられた肉体とボクシングをしっかり見せようする意図からか、劇中ではかなり正直にボクシング対決のシーンを丁寧に描いているのだが、これが本作の失敗となっていた。

ボクシングの迫力や臨場感を演出しようとした結果、それらの作り物感だけが強調されることになっている。パンチがヒットする音など細部を正確に描こうとしたことで逆に嘘くさくなってしまっている。そのため劇中で描かれる興奮にはついていくことができない。ボクシング映画の醍醐味とは、正確なボクシング描写にあるのではなく、ボクシングの熱狂を物語としてスクリーンに再現できるかにかかっている。『ロッキー』にはあった、誰もがリングサイドの観客と同期できるような興奮は本作にはない。ラストのボクシング対決は確かに感動的なのだが、何かが足りない。熱狂できないのだ。アントワーン・フークア作品では2006年の『ザ・シューター/極大射程』でも似たような感想を持った。リアリティにこだわった結果、細部が淡白になってしまっている。

本作は物語としての醍醐味よりも、ジェイク・ジレンホールが演じるボクサーが抱える狂気と冷静の危険なバランス関係だけが見所になっているのだが、やはりそれもパンチドランカーの宿命なのかもしれない。

殴られることを本望とするビリーが、新しいトレイナーとともに磨きをかけるスタイルとは、ショルダーブロックを多用したディフェンス中心のもの。一般的にショルダーブロックとは緊急的に顎へのヒットをかわす目的で使用されるのだが、ビリーはそれを多用することになる。それはパンチドランカーにもならずに、宿敵にも勝つことができる一石二鳥のスタイルなのだが、そんなに上手く物事が進められるとなると興奮にも上限が生まれてしまう。もちろん主人公はすでに愛する妻を失っているという痛手はあるも、「パンチドランカー」としての将来と目先の勝利とは、やはり分離して扱いべきだった。どちらか一方しか選択できない状況下でこそ、ビリーにとって唯一生きる目的となっている愛娘の存在も生きるし、そこに葛藤も生まれるだろう。殴られることを信条とするボクサーの葛藤が描かれなかっため、パンチドランカーとしてのビリーの価値がほとんど捨てられてしまっている。すでに人格障害が現れているとも受け取れるビリーなのだから、やはりパンチドランカーとしての彼の未来と向き合うべきだった。

全体としては退屈な印象を持つも、ジェイク・ジレンホールの演技はやはりそれだけのために鑑賞する価値はある。今回もドーピング疑惑が指摘されるほどにライト・ヘビーの選手の体をしっかりと作ってきた。そして本作における丹下段平とも言えるトレイナーを演じたフォレスト・ウィテカーもよかった。ちなみに丹下同様に彼も左目を負傷しているという設定だが眼帯は巻いていない。

期待していたような水準には届いていないながらも、やはりラストのボクシング対決は、なかなか魅せてくれる。ジェイク・ジレンホールが実際に演じているという実感は感じられる。しかしだからこそ、彼には類型的なプロットのなかで終わってもらいたくなかった。いつ壊れてもおかしくない危険なバランス感覚のなかでこそ彼の演技は生きる。それはいつ発症するかわからないパンチドランカーの魅力とも重なるだろう。パンチドランカーから転向することで ビリー(ジェイク・ジレンホール)の魅力は確実に削がれる。もちろん随分といやらしい視点だとは思うが、彼は力石徹にはなれなかった。それに尽きると思う。

『サウスポー』:

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ということでジェイク・ジレンホール主演、アントワーン・フークア監督作『サウスポー』のレビューでした。日本公開が夏に予定されているジェイク・ジレンホール主演の『ナイトクローラー』と比べると、物語部分での弱さが目立つ作品です。彼の演技は相変わらずにぶっ飛んでいる分、それ以外での違いが目立ってしまうのです。それにしてもアントワーン・フークア監督は、なんかつかみ所がないですね。『イコライザー』は素晴らしかったのですが、他の作品では面白いのだが物足りなさを感じでしまいます。今のところ日本公開は未定ですが、最近はジェイク・ジレンホール主演作は日本でもしっかりと公開されるているので本作も期待できます。是非劇場で。以上。

Summary
Review Date
Reviewed Item
サウスポー
Author Rating
3
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