映画『スロウ・ウェスト/Slow West(原題)』レビュー

2015年のサンダンス映画祭でワールドシネマ・ドラマ部門観客賞を受賞した『スロウ・ウェスト/Slow West(原題)』のレビューです。恋人を探して旅に出た少年と、彼を助ける賞金稼ぎの物語。少年をコディ・スミット=マクフィーが、そして賞金稼ぎはマイケル・ファスベンダーが演じる。衝撃のラストに注目。監督は本作が長編デビューとなる元「ベータバンド」のジョン・マクリーン。面白かった。

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『スロウ・ウェスト/Slow West(原題)』

全英公開2015年5月15日/日本公開2016年7月17日/イギリス・ニュージーランド合作/84分

監督:ジョン・マクリーン

脚本:ジョン・マクリーン

出演:マイケル・ファスベンダー 、コディ・スミット=マクフィー、ベン・メンデルソーン他

あらすじ(ネタバレなし)

1870年のコロラド。ジェイ(コディ・スミット=マクフィー)という16歳の少年は、故郷のスコットランドで生き別れた恋人ローズを探し、たったひとりでアメリカに渡り、東海岸から西海岸へ旅に出ていた。そして旅の途中で危険な目にあった時に助けれくれた賞金稼ぎのサイラス(マイケル・ファスベンダー)を用心棒として迎える。

荒野を旅するなかで、不思議な人々と出会い、人を撃ち、インディアンに襲われ、それでもジェイは愛するローズと再び出会うためにひたすら西へと向かう。その旅路の果てに何が待っているのかも知らずに、ただ西へと進むのだった。

レビュー

大人になることの大切さを教えてくれるのはいつも少年少女だった:

本編は80分程度の映画だが、これが驚くほどに面白かった。緊張と緩和が繰り返されながら、美しい映像と詩的な会話で描かれるのは、どうしようもなく粗野で軽率な、神話的原風景としてのフロンティア。そして最後にこれまで語られてきた全ての美しい感情を拒絶する展開を見るに、本作の隠された物語を知ることになる。

舞台はフロンティアが多く残された19世紀のアメリカ。荒野を旅するのは大抵がロクでもないアウトローたちばかり。ひとりの少年が愛する女性を探して故郷を旅立ち、危険が渦巻くフロンティアを旅する。

これは世界中に存在する神話の定型である。まだ子供の主人公が現実の厳しさを伴う大人の世界を旅することで、自分自身も大人へと成長していく通過儀礼。きっかけは恋。恋愛は子供から大人へ成長するために必要な感情であると同時に、大人になりたいという願望の現れでもある。それは子供であるがゆえに守れなかった恋人を取り戻す試練。しかし見知らぬ危険な大地を少年が旅するのでは心もとない。だから仲介人が必要となる。本作ではそれがマイケル・ファスベンダー演じるサイラスで、彼は大人の世界と少年の心、どちらにもアクセス可能な境界上の存在。神話では精霊であったり、天使であったり、はたまた犬やキジや猿のような動物であったり、祖先の霊魂であったりもするが、本作では賞金稼ぎ。彼の設定の意味はラストに深く関わってくる。

しかし本作は類型的な神話のフォーマットを西部劇に置き換えただけの物語ではない。通過儀礼の神話の多くが「旅立ち」、「試練」、そして「帰還」の3幕構成で描かれるのは『ロード・オブ・ザ・リング』も持ち出すまでもないが、本作では「試練」のみが描かれ、「旅立ち」は回想されるだけで詳しくは描かれない。ネタバレは避けるが「帰還」がない。描かれないのではなく、正確には隠蔽されている。

<ここから『スロウ・ウェスト/Slow West(原題)』のネタバレが含まれる可能性があります>

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物語のあらすじとしてはとてもシンプルで、プロット上での捻りはコディ・スミット=マクフィー演じる少年の永遠の恋人ローズに関する秘密の一点に集約されている。ネタバレの恐れがあるので詳細は避けるが、主人公の知らない真実を、彼を助ける賞金稼ぎが先に知ることで、物語は衝撃のラストへと誘われる。余計な回り道などせずに、ただ一本道をまっすぐ進み、その先には悲劇が待っている。それは選択の結果ではない。少年が誤った選択をした結果として悲劇が起こるのではなく、すでに予定されていた悲劇であり、それは少年にだけ向けられた悲劇でもある。

ここでコディ・スミット=マクフィー演じる少年と、マイケル・ファスベンダー演じる賞金稼ぎの関係についてもう一度繰り返す。神話的な定型では、この物語は少年の通過儀礼であるはずだ。そして彼を助けるのがマイケル・ファスベンダー。

物語の主体は少年であり、言うなればマイケル・ファスベンダーは語り部である。事実、物語は彼のナレーションで始まり、彼は神話的物語を前に進ませるための潤滑油のような存在、、、、だと思っていたのだが、、、。

ラストの仕掛けを知ってしまうと、劇中で繰り返し神話的側面が強調されていた理由もわかる。劇中ではふたりが星々の下で眠り、会話では聖書の詩篇が引用される。その細部は少年の若くて未熟なナルシシズムを強調していると思われてたが、実はもうひとりの主人公であるマイケル・ファスベンダーの大人になりきれていない未熟なナルシシズムを強調していたのだ。なるほど、騙されていた。これは子供が大人になる物語ではなく、大人になりきれていない男が大人になるための物語だったのだ。そして彼に大人になることの大切さを教えるのが、少年の無垢なる生き方だった。

だから本作に「旅立ち」が描かれないのは正しい。「帰還」も実は描かれていた。この通過儀礼の主体が「流れ者/Drifter」である大人である以上、「試練」のなかを長く彷徨い出口を探す存在であるわけで、すでに「旅立ち」は遠い過去なのだ。

コディ・スミット=マクフィー演じる少年の名は「ジェイ/JAY」で、カケスを意味する。カケスが他の鳥の鳴き声を真似するように、本作では彼が物語の主体を真似ている。そしてマイケル・ファスベンダー演じるサイラスとは、使徒パウロと共に旅をした預言者のこと。

80分という短い映画でありながら、非常に意欲的な物語。監督はエレクトリック・フォーク・バンド「ベータバンド」の元メンバーで、これが長編監督デビュー作となったジョン・マクリーン。世界一ツイていない警官と一文字違いだが(日本語では)、これからが非常に楽しみな才能だと言える。なお、本作は2015年のサンダンス映画祭でワールドシネマ・ドラマ部門で観客賞を受賞している。こういう野心的な映画はなるべくたくさんの人に観てもらいたい。

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ということで『スロウ・ウェスト/Slow West(原題)』のレビューでした。『X-MEN』では若きマグニートーを演じるマイケル・ファスベンダーと、次作『X-MEN:アポカリプス』ではナイトクローラーを演じるコディ・スミット=マクフィーが共演した一癖ある西部劇映画。これだけの捻りをたった80分程度の映画で見せられては、賞賛せざるを得ません。作品自体は小品ですが、だからこそできる捻りの効いた一作です。こういう映画はなかなか日本では紹介されませんが、人気俳優が出演しているということで期待してみましょう。全米では、今流行りの劇場公開と同時にVODでも公開という形式をとっていたので、日本でもどうにかできるのではないでしょうか。これはおすすめですよ。以上。

追記:2016年7月17日より新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2016/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」にて上映

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Review Date
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スロウ・ウェスト/Slow West(原題)
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4
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