映画『ネオン・デーモン』レビュー

『ドライヴ』の鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン監督最新作『ネオン・デーモン』のレビューです。エル・ファニング演じる新人モデルが遭遇する美しすぎるショービズ界の闇。クラシックな文芸映画にはじまり、グロ映画として完結するレフン節が炸裂する問題作。

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『ネオン・デーモン/ The Neon Demon』

全米公開2016年6月24日/日本公開2017年1月/ホラー/117分

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン

脚本:メアリー・ロウズ、ニコラス・ウィンディング・レフン、ポリー・ステンハム

出演:エル・ファニング、カール・グスマン、ジェナ・マローン、ベラ・ヒースコート、アビー・リー、キアヌ・リーブス

レビュー

これまで『ブロンソン』や『ドライヴ』といった男臭い作品を撮っていたニコラス・ウィンディング・レフン監督も前作『オンリー・ゴッド』ではその男臭さの背景にある生々しい女性性(クリスティン・スコット・トーマス!)を登場させ、最新作『ネオン・デーモン』ではついに女だらけの恐ろしい世界を描いて見せた。とにかく全てが常軌を逸しており、最初から最後まで開いた口が塞がらなかった。

物語は一見するとレフン版『イヴの総て』とも言える。「女は怖い」映画の決定版とも言える『イヴの総て』(’50)では田舎から出てきた新人女優が、その素朴さを逆手にとって大物女優に取り付き、やがてはその座を乗っ取っていくという内容で、本作はそれを現代のモデル業界に置き換えたような作品としてはじまる。

田舎からLAに出てきたモデル志望の高校生ジェス(エル・ファニング)は自信なさげながらも、その素朴さを魅力にしてモデル事務所と契約することになる。周りの野心的なモデルたちと比べると地味なジェスだったが、彼女にはモデルとして大成するために必要な「何か」があり、有名デザイナーやカメラマンにはそれがはっきりと感じられた。

現場で知り合ったメイクアップ・アーティスト(ジェナ・マローン)らと知り合いながら、ジェスのなかで飼い隠されていたその「何か」がまるで生き物のように虚実入り乱れる世界に這い出してくる。

Neondemon

それでも「素朴な女にこそ気をつけろ」という夢見がちな男への教訓として、現実を拡大解釈していたはずのストーリーは、途中から奇妙な方向へシフトし始める。『イヴの総て』を彷彿とさせるクラシック文芸風味をホラーテイストに仕上げた作品かと思わせておいて、途中から一気にトーンはカルトホラーの様相を表しはじめ、最終的に着地するのがなんと『ネクロマンティック』(’87)。そのプロセスには思わず笑ってしまいそうになるほどだった。

ネタバレになるといけないので本編の内容に関してはあまり触れないが、「屍体とし・た・い。」というキャッチフレーズや、目ん玉がポロリするなど個人的にはもう二度と観たくないネクロフィリア映画が、ニコラス・ウィンディング・レフン監督特有の原色を混ぜ込んだコントラストの強い色彩のなかで再現されていた。女性がひた隠しにする本性を映画的に描き出そうとしておいて、なぜネクロフィリア(死体としたい)が必要なのか。しかもその先まであるのだ。

自分の美に目覚めた若い女性がやがて恐怖の存在に変貌いくというサスペンスホラーかと思っていたら全然違っていた。本当にそんな映画じゃなく、もっと狂っていた。ニコラス・ウィンディング・レフンの女性観とは一体どんなものなのだろうと戦慄した次第なのだ。

本作のジャンルがどんなものであれ、テーマとしてはモデル業界のみならず多くの女性が抱いているはずの美への強迫観念を描いている。劇中で「あなたは綺麗なの?」と聞かれたエル・ファニングが屈託無く「はい」と答えるシーンは映画そのものへの深い示唆を含んでいる。「あなたは綺麗なの?」という意地悪な質問に対しての「はい」という回答には、自分への美への圧倒的な自信もしくは信頼が含まれているはずだ。そしてモデル業界においては、その自分の美の価値こそが全てであり、トロフィーでもある。結局のところモデル業界だけでなく女性の世界には往々にして起こるらしい足の引っ張り合いとは、この美のトロフィーをめぐる内紛なのだろう。

そう理解して本作のラストを見れば、例えばミクロネシアの原住民たちが死者への畏敬からその力を受け継ぐためにカニバリズムを行ったように、美をめぐるシンプルかつ豪勢な戦場のなかにいるモデルたちにとって、自分にない美を持つライバルとは捕食の対象とさえなるのだろうか、、、、などと思ってみたりもするが、やはりあのラストはニコラス・ウィンディング・レフンがどうかしているだろう。

『SUPER8/スーパーエイト』での健気で分け隔てのない女の子を演じ『マレフィセント』ではオーロラ姫を演じたエル・ファニングが、それから数年後にはまさかあんなことになるなんて、エージェントはそれでいいのか。姉のダコタ・ファニングも『ハウンド・ドッグ』(’07)でレイプされる少女を演じて大バッシングを喰らったが、姉妹そろって問題作に出ずにはいられない性質なのだろうか。

色彩や映像のセンスは相変わらず飛び抜けており、劇中に登場する撮影スタジオの非現実感などストーリーだけでなく見所は多い作品だが、やはりそれ以上にこの狂った内容は一見の価値がある。とにかくラストは思わず声が出そうになった。そしてやっぱりニコラス・ウィンディング・レフン監督作品は見逃せないのだ。

『ネオン・デーモン』:

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Review Date
Reviewed Item
ネオン・デーモン
Author Rating
4
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