映画『ザ・コンサルタント』レビュー:ベン・アフレック主演、『ウォーリアー』ギャヴィン・オコナー監督作

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ギャヴィン・オコナー監督とベン・アフレックがタッグを組んだ『ザ・コンサルタント』のレビューです。アスペルガー症候群のため数字に天才的な能力を発揮する会計士ウルフには凄腕の暗殺者という裏の顔があった。『ウォーリアー』の系譜を受け継ぐ絶品のアクションドラマ。

『ザ・コンサルタント/The Accountant』

全米公開2016年10月14日/日本公開2017年1月21日/アクション/131分

監督:ギャヴィン・オコナー

脚本:ビル・ダビューク

出演:ベン・アフレック、アナ・ケンドリック、J・K・シモンズ、ジョン・バーンサル、ジーン・スマート

レビュー

マット・デイモンではなくベン・アフレックが数字に天才的な能力を発揮する会計士を演じる『ザ・コンサルタント』は、「ひとまず」メチャクチャ面白い映画と断言したい。ギャビン・オコナー監督の名を知らしめた『ウォーリアー』の系譜を受け継ぐ作品であることは明白で、孤独にしか生きられない男の悲哀をエンターテイメントという大皿の上でしっかりと盛り付けてくれている。

主人公はアスペルガー症候群を患いつつ幼少の頃から特別な分野で驚くべき才能を発揮していたクリスチャン・ウルフ。成長した彼は数字の分野で非凡な才能を開花させ、会計士として生活していた。ここまではまだドラマ映画としてよく見聞きする設定だ。『レインマン』『ビューティフル・マインド』など、障害のという個性が見せる天才性とは映画の題材にはよく似合う。しかし本作はそんな映画では全然ない。冒頭で「ひとまず」とエクスキューズを入れたのはそのためだ。

この映画、とにかく出鱈目だった。荒唐無稽で、ロマンチックで、マッチョで、しかし何よりメチャクチャ面白い。

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障害のため社会性が著しく欠如してしまっているウルフは、日々決まったルーティーンをこなしながら、表立っては会計士として生活している。アスペルガー症候群を患う彼は幼少の頃から「普通」ではなかったが、それは数字の取り扱いにも言えた。「普通」ではないほどに天才的だったのだ。通常の会計士なら数週間かかるような帳簿の確認も、彼はおそるべき計算力と集中力で数時間で完成させてしまう。彼にとって数字を正しく処理し、その背後の意味を読み取ることは仕事ではなく、才能を試すためのゲームのようだった。

ある日、最先端技術を取り扱う企業に招かれ、会社の会計士ダナ(アナ・ケンドリック)と一緒に過去の数年にわたる帳簿の調査を依頼される。といってもウルフは誰の助けも必要ではなかった。たったひとりで数十冊にも及ぶ帳簿に記載されている数字を読み出した彼は、驚きべきスピードで資金の出入りを計算し始める。そして会社の出納状況をたった1日で明瞭化したウルフだったが、そこには通常の会計処理では理解できない金の流れが存在した。その詳細がわからなければウルフにとっての「会計」というゲームは終わらない。ダナの力も借りて読み解こうとするのだが、どうしても説明がつかなかった。

しかし翌日、その不明会計を読み解こうとしたところで、会社のトップから一方的に調査の終了が言い渡される。ウルフが計算した数字は消され、帳簿も没収された。ゲームを途中で強制終了させられたウルフはアスペルガー症候群特有の症状が一気に現れる。ゲームを終わらせたい。ゲームを終わらせたい。終わらせたい、、、

昔から彼はそうだった。パズルの最後のピースが見つからないということで癇癪をおこしてしまう。始めたことは終わらせなければならないのだ。

そして彼は企業の不正会計に近づいてしまったために謎の組織から命を狙われることになる。

しかしクリスチャン・ウルフはただの天才会計士ではなかった。彼は幼少の頃から弟と一緒に、厳格な父から徹底的に鍛え上げられていた生まれついての戦闘マシーンで、会計士として働く傍ら世界中の違法組織の帳簿を仕切り、必要ならば裏切り者を容赦なく殺す凄腕のスナイパーでもあった。

無口で愛想もなく笑顔も見せない孤独な男は、相手が勝手に始めたゲームを終わらせるために銃を手にする。

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異色の料理人ギャビン・オコナー監督

という序盤の説明だけで、まともな人は頭が痛くなってしまうのかもしれない。とにかく設定は出鱈目だし、倫理的にもかなり歪な作品だ。主人公クリスチャン・ウルフは一見すると障害を抱える「善人」に思えるが、実際は闇の組織の帳簿を取りまとめマネーロンダリングを繰り返し、かつて白昼にギャングがまとめて殺害した経験すらある。つまり彼は社会的に見れば「悪人」だ。もちろん障害者はみな善人という考えは悪しきステレオタイプだが、アンチヒーローとしても少々やりすぎだし、繰り返しになるが、何より出鱈目すぎる。

アスペルガー症候群の天才会計士は、裏社会の帳簿を一手に束ねる、凄腕のスナイパー。

しかもその主人公を演じるのは実生活ではラスベガスのカジノから出禁を言い渡されるほどのカードゲーム愛好家で、『バットマン』のベン・アフレック。これだけでも胃もたれしそうなのに、物語は主人公が闇の組織から狙われて反撃するというだけでは飽き足らず、終盤には『ウォーリアー』な展開が待っているのだ。「普通」の映画なら共生を避けるような物語要素も、リアリティの確保など御構いなしにどんどんと注ぎ込んでいく。

まるですき焼きにパンケーキを乗せてカレーをかけただけでは不満顔で最後に上からごっそりチョコミントを乗せたような設定なのだ。

こんなものが食えるのだろうか? 一口食べただけで吐きそうになるのでは? そう思いますよね?

確かに好き嫌いが分かれる作品だと思う。『ウォーリアー』ほどテーマが絞れている訳でもなく、物語の視点が現在と過去、そして追う者と追われる者、障害者と健常者、と頻繁に分断されるため終盤の展開へと至る助走が十分ではなくなっている。またベン・アフレック演じる主人公と、彼が守るアナ・ケンドリック演じる女性会計士との関係性も不十分だった。二人とも会計という行為のなかに同じゲーム性を共有していることが仄めかされるのだから、そこをきっかけにして仕事上のパートナーとしてだけではない特殊な感情の醸成をもっと丁寧に描けたはずだ。

他にもストーリーの傍流部分が多すぎて、本流がいい加減になっていることも間違いない。

それでもこの馬鹿馬鹿しいとさえ思わせるような設定とストーリーを最後までやり通し、回想パートに登場するだけで不在のままだったある人物を思い切ってストーリーの本流に関わらせた力技は、監督の確かな力量の賜物だろう。終盤の興奮作用はやはり『ウォーリアー』の監督作と思わてくれる。

思えば『ウォーリアー』だって設定はかなり強引だった。それでもギャビン・オコナー監督は普通なら荒唐無稽なアクション映画として描かれるはずの「チート」な主人公の特殊能力を、決してポジティヴなだけの「ギフト」としては描かない。それ以前に孤独や悲しみがあるということを忘れていない。

そして主人公を「普通」な仕事の代名詞とも言うべき会計士とし設定し、特殊能力を持った代償としての社会不適合ぶりも同時に描くことで、出鱈目なストーリーのなかで人間としての悲しさや孤独さが逆に映えるようになった。それがラストシーンの染み入るような印象が強くさせてくれる。

もちろんそんな「出鱈目」な主人公を演じたベン・アフレックも素晴らしい。マット・デイモンが演じた繊細で壊れやすい天才性ではなく、ひとりぼっちでしか生きられない無骨な天才の孤独は『バットマン』のそれとは違った魅力があった。

『ウォーリアー』ファンは必見。

奇食も時には美食になる。そんな作品だった。

『ザ・コンサルタント』:

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