映画『スーサイド・スクワッド』レビュー(ネタバレページあり)

DCコミックスに登場する悪党たちがチームを結成する話題作『スーサイド・スクワッド』のレビューです。全米では公開と同時に論争を巻き起こした問題作。これは傑作なのか、それとも凡作なのか!? デヴィッド・エアー監督が描くDC版『ワイルド・バンチ』!

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『スーサイド・スクワッド』

全米公開2016年8月5日/日本公開2016年9月10日/アメコミ/123分

監督:デヴィッド・エアー

脚本:デヴィッド・エアー

出演:ウィル・スミス、ジャレッド・レト、マーゴット・ロビー、ジョエル・キナマン、ヴィオラ・デイヴィス、福原かれん

レビュー

全米でプレミア上映されるやいなや批評家を中心に酷評されるも、逆に熱心なDCファンたちがその採点形式に疑問を投げかけ、某映画サイトの閉鎖を訴える署名活動まで行われた一連の騒動も、すべては『スーサイド ・スクワッド』への期待の高さを窺わせるものだった。出演者も豪華で、ウィル・スミスが冷酷な暗殺者を演じ、『ダラスバイヤーズ ・クラブ』での鬼気迫る演技を絶賛されたジャレッド・レトがジョーカーを演じ、そして今最も勢いのある女優のひとりマーゴット・ロビーが頭のネジが吹っ飛んだハーレイ・クインを演じる。そして監督はこれまでR指定映画を中心に犯罪と戦争を描き続けてきたデヴィッド・エアー。片道燃料のみで無理やり結成された自殺部隊の活躍を描くにはこれ以上ない布陣だった。

それでも批評家は本作を酷評した。曰く「プロットがまとめられていない」「ジョーカーの存在感が中途半端」「ハーレイクインの立場が古臭い」「悪党たちなのに都合よすぎる」「ストーリーが支離滅裂」、、、と理由は多岐に及ぶ。一方で本作を擁護する声も少なくはない。熱狂的なDCファンのケヴィン・スミスは批評家の酷評ポイントを逆手にして肯定的にとらえ「監督はDCコミックスの矜持が分かっている」と絶賛し、ファンたちの間でも批評家の「ストーリーが支離滅裂」という批判に対し、個性的なキャラクターたちのバックグランドを持ち寄って作られたストーリーとして、擁護する声が多い。

この一連の評価をめぐる論争に見られるように『スーサイド・スクワッド』は「映画に何を求めるのか?」という観客の立場によって丸っきり価値が変わってくる作品だったことは間違いない。

物語は『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』後の「スーパーマンのいなくなった世界」を舞台にしている。そのことに危機感を覚えた政府高官アマンダ・ウォーラーは刑務所に服役中の悪党たちを利用して特殊部隊「スーサイド・スクワッド」を結成する。一方、政府が秘密裏に管理下に置いていた太古の邪悪な魔女エンチャトレスが暴走し、人類の脅威となりつつあった。こうして毒を持って毒を制する特殊部隊「スーサイド・スクワッド」はいきなり実戦のど真ん中に放り込まれることになる。

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(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

本作を見ている途中はサム・ペキンパー監督の『ワイルド・バンチ』を連想しつつ、見終わったころにはギレルモ・デル・トロの『ヘルボーイ』(2004)を思い出していた。

デヴィッド・エアー監督が一時期サム・ペキンパーの名作『ワイルド ・バンチ』リメイク企画に脚本そして監督として関わっていたことは、その企画が頓挫した後の『フューリー』にも色濃く残存している。全てのシーンはラストシーンのためにあると言わんばかりに回転数を上げるクライマックスとその後の虚無。その雛形となっていると見て間違いない『ワイルド ・バンチ』の魅力とは、「男臭さ」と、「帰らずの者の美学」と、そして「残酷な戦場の魅力」といった要素が、映画至上最もクールな男たちの笑顔に凝縮されていく過程にある。そして本作『スーサイド・スクワッド』のクライマックスもまさに『ワイルド・バンチ』だった。誰から頼まれたわけでもないのに『ワイルド・バンチ』な悪党どもが、それぞれの武器を手に嬉々として敵地に乗り込んでいくシーンは、デヴィッド・エアーがどうしても『スーサイド・スクワッド』で撮りたかったクライマックスであり、デヴィッド・エアーが『スーサイド・スクワッド』のメガホンを取ることが決定してからファンがどうしても見たかったシーンでもある。

『バッドタイム』や『エンド・オブ・ウォッチ』など中南米系移民に深いシンパシーを見せるデヴィッド・エアーだからこそ、ジェイ・ヘルナンデス演じる元ギャングで炎を操るエル・ディアブロに「帰らずの者の美学」を体現させ、ウィル・スミスのデッドショットからは銃器から煙るような「男臭さ」がプンプンと匂ってくる。少なくともこの2人のキャラクターの魅力は疑いようがなく、そこにハーレイクインやカタナ、リック・フラッグ、ブーメラン、キラー・クロックと「平場では生きられない」男女の葛藤が、ストーリーにしっかりと盛り込まれている。

はっきり言ってこれさえあればファンは満足だろう。悪党たちが自らの毒で間接的に誰かを助けるという、ファンが望んだクライマックスは確かに存在する。

しかし本作がアメコミ版『ワイルド・バンチ』として十分な作品かと聞かれれば、首をひねらざるを得ない。基本的にマーベル映画よりもDC映画の方に肩入れしがちながらも、『スーサイド・スクワッド』にはいくつかの無視出来ない問題点がある。「無視出来ない」とは粗探しの結果に見出される欠点ではなく、鑑賞中に自然と沸き起こってくる違和感のことだ。

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(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

本作はオープニングから主要メンバーの紹介を通して、「スーサイド ・スクワッド」結成前日の経緯が描かれる。彼らはなぜ刑務所に入れられているのか? 彼らはなぜ危険なのか? そのひとつひとつがクラシックなロックチューンをバックにいきなりアクセル全開で描かれる。同じ世界観を共有する作品からカメオ出演があり、アメコミ作品として盛り込まなければならないサービスは最初から披露される。

しかし主要メンバーだけの紹介だけでなく、本筋とは直接関係のないジョーカー関連の部分にまで時間を取られるため、ストーリーの核となるプロットと、メンバー紹介のプロットの比率が歪になっている。結果として、彼らが戦う理由に関しては描かれても、そんな彼らが戦うべき相手についての情報量が著しく少なくなっている。戦う理由があっても戦う相手が存在しなければ、その戦いに価値はない。それではただの「悪事」と変わらない。彼らの悪党としての葛藤から見出された戦場に赴く理由に対して、本作のヴィランはあまりにも不釣り合いに弱すぎる。

そして物語のスケールも小さい。オープニングからいきなり盛り上がる展開のため、2時間という上映時間に退屈を感じることはないが、たった一晩の出来事をメインとするために、イベントごとの境界が不明瞭となり、いつの間にか始まって、いつの間にか終わっているという結果になっている。

これは世界観が異質なシリーズ作品第一作目としては珍しくないことでギレルモ・デル・トロの『ヘル・ボーイ』でも同様の問題が起きている。世界観やキャラクターの説明をしつつ、物語を展開する必要があるため、 どうしても作品を盛り上げるのに必要な段階を踏むことができなくなる。おかげでいきなり本題に入ったかと思うと、そこからの奮闘を描く時間がなく、そのまま終わっていく。作品内の危機を平面的に広げることが出来ず、こじんまりとしてしまっている。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の大風呂敷と比べるとそのスケール感の小ささはさらに目立つことになる。

とは言っても『ヘル・ボーイ』の続編である『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』が大化けしたように、キャラクターの説明や世界観の共有も終わっているため『スーサイド・スクワッド』も続編への期待値は非常に高いのも事実。おそらくはその期待値を本作の評価に含めるか否かで、酷評と擁護の立場は案外あっさりと変わってしまうように思えた。

ジョーカーとハーレイクインの関係についても「続編への期待」という言葉で説明可能だろう。はっきりいって本作にジョーカーはほとんどいらない。個人的にはハーレイクインの回想くらいに止めるべきだったと思う。一部ではデヴィッド・エアーの意向を汲まずスタジオサイドが強引にカットしたためジョーカーの出番が少なくなっていると言われているが、本作におけるジョーカーの問題は登場時間の長さではなく、そもそも物語の外側にいることに尽きる。少なくともジョーカーは続編に必要な要素であり、ハーレイクインを語るための要素に過ぎない。もっとバッサリとやってもいいとさえ思った。

他にもハーレイクイーンの「男依存」ぶりや、カタナに関連して登場するボビー・オロゴン風日本語(タノム、カンベンシテクレ、ヤッテネーゾなど)の数々など詰めの甘さも目立つ。

それでもエル・ディアボロを筆頭にキャラクターたちそれぞれは際立っており、デッドショットに関連したラストシーンも手練れている。そして何より『ワイルド・バンチ』好きにはたまらない悪党たちの闊歩シーンもある。問題はあれどしっかりと興奮させてアゲテくれる作品なのは間違い無いだろうから、さすがに100点満点で20や25という数字はヒドすぎると思うのだ。

是非とも続編で見返してもらいたい。

『スーサイド・スクワッド』:

『スーサイド・スクワッド』のストーリー(ネタバレ)は次のページ

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Summary
Review Date
Reviewed Item
スーサイド・スクワッド
Author Rating
3
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2 件のコメント

  • はじめまして。今日こちらを知ったのですが、どのレビューも非常に丁寧且つフェアな視点で書かれており大変感銘を受けました。これから少しずつ過去記事を拝見させていただこうと思います。気になっていた「スーサイド」につきましてもこれまた「なるほど」と納得の評でした。ただ記事の一部に漢字の間違いを発見してしまいましたので、念のためご報告しておきますね。(本コメントは削除いただいて結構です)

    物語は『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』後の「スーパーマンのいなくなった世界」を部隊にしている。

    • じまさん、コメントありがとうございます。
      ご指摘いただいた誤字も訂正させてもらいました。
      今後も暇な時にでも遊びに来てください。

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