映画『ぼくとアールと彼女のさよなら』レビュー

映画撮影が趣味の高校生の「ぼく」と友人「アール」、そして白血病の少女レイチェルの物語『ぼくとアールと彼女のさよならl』のレビューです。サンダンス映画祭で大賞と観客賞をW受賞した、可笑しくも率直で愛おしい青春映画の誕生。

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『ぼくとアールと彼女のさよなら/Me and Earl and the Dying Girl』

全米公開2015年6月12日/コメディ・ドラマ/105分

監督:アルフォンソ・ゴメス=レホン

脚本:ジェス・アンドリューズ

出演:オリヴィア・クック、トーマス・マン、ニック・オファーマン、モリー・シャノンほか

あらすじ

高校生グレッグは平穏無事な高校生活を送っている。スクールカーストにはそもそも属さず、友人も作らず、趣味の古典映画のパロディを、友人ではない共同制作者アールとともに製作することで日々を過ごしている。

そんなある日、母親から幼少時代は仲がよかったレイチェルが白血病になったと知らされる。そして無理やり彼女のお見舞いに行かされるグレッグは、戸惑いながらも徐々に彼女と友情を築いていく。

そして病状が悪化する彼女のためにと、無理やりレイチェルを励ます映画作りをお願いされてしまい、グレッグは断りきれずに映画製作を開始することにする。


レビュー

この数年に見た青春映画で印象に残っている、『桐島、部活やめるってよ』と『きっと、星のせいじゃない』とどこか深い部分で繋がっていながらも、それらには描き切れていなかった若さ特有の「死」への不確かな実感を正面から描いた本作は、コメディだからこそ到達できるラストの深みには思わず涙が溢れる。

『Me and Earl and the Dying Girl』という原題は東京タワー風に翻訳すると「ぼくとアールと、死にかけの彼女」とでもなるだろうか。タイトルからも分かるように難病を患った同級生の女の子が物語のきっかけとなっている。彼女が白血病を患わなければ、この物語は成立しない。しかしよくある難病もの、特に日本ではティーン向け伝統芸能として定着しつつある号泣系難病もの映画とは全然違う。確かにラストには思わず涙がこぼれてしまうかもしれないが、それは誰かが死んだことへの悲しみから流される涙なんかじゃない。正確には言えば、難病もの映画特有の、誰かが死ぬことで泣かなければならないという同調圧力に屈した涙は、本作では一滴も流れない。

タイトルの斜め向き具合からも分かるように本作はコメディだ。主人公グレッグは冴えない高校生。趣味の映画製作に没頭し、友人も作らず、波風のない高校生活を送っている。幼稚園時代からツルんでいるアールという黒人同級生もいるが、彼も友人ではなく、映画の共同制作者として付き合っている。そんなある日、母親から同級生で今ではほとんど話すこともないレイチェルが白血病を患ったと聞かされ、彼女を見舞うことを強要される。久しぶりで気まずい二人だが、妙に気が合い、徐々に打ち解けていくことになる。そしてレイチェルはグレッグとアールが作ったパロディ映画を気に入り、日々の楽しみとするようになる。それでもレイチェルは白血病だった。徐々の彼女の容態は悪化していき、3人の関係も変化を余儀なくされる、、、。

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まずこれはネタバレではないと思うので断っておくと、本作に恋愛の要素は全くない。グレッグとレイチェルがくっ付き、命の最後の炎を燃やして愛し合うとかそんな展開は一切ない。それどころか二人の間に、果たして友情さえもあったのか疑わしい。あくまで彼らは高校生で、死にゆく同級生の最後の幸せを想い日々生きる、なんて土台ありえないのだ。彼らは彼らのやり方でレイチェルを労わることがあっても、身近な死を経験していない彼らに、そもそも「死にゆく」という状態に実感なんか持てっこない。無理やりそんなものを持たされても拒絶するのが当たり前だ。

こういった若さ特有の「こじらせ」ぶりや面倒臭さには思わずドキリとさせられてしまう。かなり昔の、しかもほんの短時間だけの、青春の一時に宿る、その微妙な周囲との距離感を本作は思い出させるのだ。そしてその微妙な距離感はほんの些細なことで一気に壊れていき、そして回復もしていく。

主人公グレッグが本編で独白するように、青春映画としての決まりごととは、現実には起こらない出来事と言える。しかしグレッグの身に起きたこととは、まさに青春映画にでも登場しそうなことばかり。クラスメートの女の子が難病を患い、彼女はグレッグの作る「親指タイタニック」みたいなパロディ映画のファンになる。そして彼女のためにグレッグは映画を作ることを決心する。

では実際に青春映画のなかに放り込まれたグレッグはどうしただろうか?

グレッグはレイチェルのために映画を作り上げたのだろうか?

もしその映画が完成するとすれば、青春映画のセオリーでは、レイチェルの死を意味するのではないだろうか?

こういった疑問は是非とも本編を観て解決してほしい。その全てが解決される時に流される涙とは、きっと号泣系のそれとは違うはずだ。

主演3人の個性も魅力的だし、レイチェルやグレッグの母親や父親、そして学校の先生など、キャラクターも重なることなくそれぞれが立っていた。そして本作にはクロサワ、ヘルツォークやリンチなどへの言及もたくさんあり、古典映画のパロディやオマージュも散見されるので映画ファンにはたまらない。特にグレッグはヴェルナー・ヘルツォークのモノマネをするシーンで優しく笑うレイチェルが個人的には一番好きなシーン。彼女はヘルツォークを知っているのか微妙だが、それでも笑ってくれるレイチェルは本当に素敵だ。

遠回りでも、不器用でも、不躾でも、不謹慎でも、本作には真面目な優しさが詰まっている。その素直さに感動する。

『ぼくとアールと彼女のさよならl』:

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ということで『ぼくとアールと彼女のさよなら/Me and Earl and the Dying Girl』のレビューでした。これも全力でオススメする映画です。2015年のサンダンスで大賞と観客賞をW受賞しただけあって素晴らしい作品ですが、なぜか盛り上がりに欠けます。日本では公開の足音さえ聞こえてきません。ちなみにレイチェル役のオリヴィア・クックはスティーブン・スピルバーグ監督作『ゲームウォーズ』のヒロインにも抜擢されました。個人的には青春映画としては近年ベストクラスの一作です。オススメです。以上。

Summary
Review Date
Reviewed Item
ぼくとアールと彼女のさよなら
Author Rating
4

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