映画『華麗なるリベンジ』レビュー

ファン・ジョンミンとカン・ドンウォン共演の『華麗なるリベンジ』のレビューです。冤罪で収監された検事とイケメン詐欺師がコンビを組んで刑務所内から巨大な権力に立ち向かう。韓国の厳しい上下関係を逆手にとった痛快下克上ムービー!

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『華麗なるリベンジ』

日本公開2016年11月12日/ドラマ/126分

監督:イ・イルヒョン

脚本:イ・イルヒョン

出演:ファン・ジョンミン、カン・ドンウォン、イ・ソンミン、パク・ソンウン

レビュー

『ベテラン』での執念の刑事役や『新しき世界』でのヤクザ役など、寡黙ながらも内にただならぬ意志を秘めた役柄を得意とするファン・ジョンミンが演じるのは冤罪で15年の刑に服することになった元検事。政財界と暴力団との癒着事件を担当したピョン・ジェウク検事は、被疑者には暴力を使ってでも吐かせる武闘派。しかしそんな彼の抑制の効かない正義感は、ずる賢い悪党にはもってこいだった。事件の重要参考人として逮捕されたチンピラが尋問中に急死したことで、ピョン・ジェウクは殺人容疑で逮捕されてしまう。

確かに被疑者を殴った。しかしそれが死因ではないことを知っていたジェウクは上司の裏切りにあい15年という実刑をくらい、一夜にして検事から殺人者へと転落することになる。失意のなかで刑務所に入ったジェウクは、かつて自分が裁いた犯罪者らに痛めつけられながらも検事としての法律の知識を使って徐々に刑務所内で信頼を勝ちとるようになる。

そんな時、詐欺容疑で入所してきたカン・ドンウォン演じる天性の詐欺師ハンが、自分を罠にはめた事件の鍵を握っていることがわかる。

こうして自分にかけられた濡れ衣を晴らすため、ジェウクはこれまでの経験と知識をフル動員し、刑務所内から事件の黒幕に挑む。

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本作には様々な要素が詰まっている。

表向きは没落した元検事と天才詐欺師のパディムービーということなのだが、主人公の検事は百歩譲って正義感に篤い人物だとしても、取り調べでの暴力を肯定するなど決して完全無欠の善人というわけではない。そして相棒のイケメン詐欺師にしても嘘をついて他人を騙すことを屁とも思っていない。作品の構造として勧善懲悪ものなのだが、主人公二人にはピカレスク・ロマン的な人物設定が施されており、これが現代韓国の諸問題への皮肉として大いに役立っている。

今では韓国文化の一部として定着してしまった、厳しい上下関係、階級的な学歴差別といった社会の「マイナス」要素が間接的にもたらした政財界と闇の関係。本作の主人公ふたりはそれらの被害者として描かれる。検事としての上下関係がもたらす権力闘争に知らぬうちに巻き込まれていたジェウクは、自分の上司によって冤罪を被らされることになる。そして詐欺師として成長したハンもまた、個人の資質ではなく学歴で評価される韓国社会によって生み出された存在だった。

こういった韓国文化の弊害をプロットの至る所に配置しておきながらも、痛快エンターテイメント作品らしく、逆に韓国文化のプラスな点を「てこ」にして巨悪を撃つという展開は、イ・イルヒョン監督が自身で執筆した脚本力の賜物だろう。2時間を超える作品であり、序盤から強調される「何気ない出来事」が終盤にかけてしっかりと回収されていくため冗長感はなく、韓国文化の上下関係が生み出す両面性を一本の映画として、しかもエンターテイメント作品として描き切った手腕は特筆すべきだ。

また本作のジャンルでもある「バディムービー」とは直訳すれば「兄弟作品」となるのだろうが、そこは上下関係で築かれる韓国社会の「兄弟作品」ということで、主人公ふたりは決して対等な間柄ではない。年齢でも、学歴でも、そして刑務所内での力関係でも、ジェウクが上でハンは 下である。しかし閉鎖的な上下関係によって濡れ衣を着せられることになったジェウクは、今度は自分が「上司」となったことで、その上下関係を有効利用しようとする。自分が上司で相手が部下だから、という安直な理由だけで懐柔することはない。

元検事としての知識を使ってハンの刑期を大幅に短縮させてやることで、ジェウクは彼を自分の「部下」として働かせる。もちろん相手は天性のイケメン詐欺師だから、思うようにコントロールはできないが、そこは悪漢検事としての遺産をフル活用し、問題にならない程度に「脅す」、もしくは痛めつける。

この微妙な両者の「バディ」関係がシリアスな展開のなかでもコメディとして要素を際立たせている。

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またジェウクの元同僚でライバルでもあるパク・ソンウン演じる検事との関係性の変化も興味深い。厳格な上下関係にほとんど唯一対抗できるのは、その上下関係があるからこそ強くなる「同期」という結びつきで、それは好き嫌いや、あらゆる利害関係さえも乗り越えるほどに強固な、韓国文化の一面として描かれている。確かに過剰な上下関係は弊害を生むが、同時にそれに対する防波堤としての「同期」という並列関係は何よりも強い。本作の外形上はジェウクとハンという水と油の「バディムービー」だが、そこに隠された本当の「兄弟関係」とは同期検事同士のそれであり、そしてハンと刑務所で突然死したチンピラとの関係も指している。

本作で描かれる韓国社会の闇とは決してコメディではない。政財界の癒着や、権力の独善家、社会の階級化。そしてそれらを監視するはずの検察機構の腐敗。ほとんど出来レースにも見える韓国社会の息苦しさを題材としながらも、エンターテイメントとして描き切っただけでも評価に価する。

過剰な上下関係や学歴社会は弊害でしかない。しかし社会というのは本能的に自己防衛システムを築きあげるものだ。上下関係に対抗するために、さらに強くなる横並びの連帯。学歴社会に楔を打つ、能力主義によって集まった集団。こういった「悪」から生まれた「善」によって正義が実行されていく過程は痛快そのもの。

笑顔をほとんど見せないファン・ジョンミン演じる元検事と、ほとんどヘラヘラしているカン・ドンウォン演じるハンの対照性は、本作で描かれる韓国文化の光と影を如実に表現している。劇中でジェウクが着せられる濡れ衣とは、そしてハンが詐欺師としての自分に甘んじるようになった理由とは、一般的な韓国人が生まれた時から背負わせれている重荷に他ならない。

本作は善が悪を撃つという単純な作品ではなく、巨悪を撃つためには小さな悪も辞さないという人々の怒りが根底にある。そういったリアルな怒りを原動力とした復讐劇だからこそ、少々無茶な設定もさほど違和感なく楽しめる。

社会に根付くストレスを逆手にとった良質なエンターテイメント作品だった。

『華麗なるリベンジ』:

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Review Date
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華麗なるリベンジ
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4
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