映画『イップ・マン3(原題)』レビュー(ネタバレあり)

Donnie yen ip man 3

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』にも出演するドニー・イェンがブルース・リーの師匠でもあった伝説の武術家を演じる大ヒットシリーズ最新作『イップ・マン3』のレビューです。愛と武術の狭間で問われる男の本当の強さとは? イップ・マンに立ち塞がるのはマイク・タイソン!

『イップ・マン3/葉問3』

香港公開2015年12月25日/日本公開未定/アクション/105分

監督:ウィルソン・イップ

脚本:エドモンド・ウォン、チャン・タイリー、ジル・ロン

出演:ドニー・イェン、マックス・チャン、リン・ホン、パトリック・タム、マイク・タイソン

レビュー

『SPL/狼よ静かに死ね』ですでに抜群の相性を証明しているウィルソン・イップ監督とドニー・イェンのタッグは、もしかするとこれで見納めになるかもしれない。そしてドニー・イェンの代名詞ともなった『イップ・マン』シリーズはこれで完結するのかもしれない。さらに言えばドニー・イェン自身が「『イップ・マン3』が私の最後のアクション映画になるかもしれない」と語っており、彼にとって本当にこれが最後のカンフー映画になるのかもしれない。そういった情報を頭の片隅に置きながら『イップ・マン3』を観ていると、時々、本当に胸がいっぱいになるような想いだった。

『イップ・マン 序章』(2008)では池内博之演じる日本人空手家と戦い、『イップ・マン 葉問』(2010)では英国人ボクサーと戦うなど、過去作では中国(と香港)の歴史的なフラストレーションが戦いの動機となっていたのに対し、本作でイップ・マンが戦う理由とは純粋に家族のためであり、自分のためであり、大袈裟ながらも愛のためでもある。もちろんこういった物語の構造変化を中国の自信の表れと解釈することもできるのだが、それ以上に「終わり」の予感を描くために必要なことだったのかもしれない。

映画の冒頭、イップ・マンが自宅で鍛錬に励んでいるところに1羽の蝶が舞い込んでくる。それが何かの予兆であることはすぐにわかる。そして次のシーンではイップ・マンのもとを一人の青年が訪ねてくる。自信満々な立ち振る舞いと、顔をへしゃげては親指で鼻頭を威勢よく叩き上げるその青年とは、もちろん若きブルース・リーに他ならない。イップ・マンに武術の指導を受けようと弟子入り志願にくるのだが、イップ・マンはブルース・リー青年の力を試したのち、何も言わずにドアを開けて彼を見送る。悔しそうに去っていくブルース・リーを見送るイップ・マンの顔をどこか嬉しそうだった。

このイップ・マンとブルース・リーとの出会い(正確には再会)は本編には直接影響はない。物語はマイク・タイソン演じる外国人の地上げ屋と学校を守ろうとするイップ・マンとの戦いがメインで、それと並行してマイケル・チャン演じる同門武術家との最強を巡る戦いも描かれ、そこにブルース・リーは関与しない。間違ってもピンチのイップ・マンを助けるためにブルース・リーが登場するとかそんな夢みたいな展開は期待しないように。

そして本作はイップ・マンと妻との純愛物語でもある。苦しい生活のなかでも夫を支え続けていた妻と、その支えのなかで武術家として大成したイップ・マンのラブストーリー。ドニー・イェンが社交ダンスまで踊ってしまうのだ。

枝分かれするアクションパートと、その動機となる純愛パート。残念ながらこれらの独立したストーリーがひとつの映画として上手くまとまっているとは言い難く、いわゆるカンフー映画のカタルシスともずいぶんと違っている。それでも劇中の至る所に配置されている「終わり」の予感が、いくつかの果てしなく美しいシーンを経過してほとんど完璧に回収されるラストシーンにはまるでこの映画に魅入られてしまったように、身体中の力が抜け落ちるようだった。

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<ここから『イップ・マン3(原題)』のネタバレが含まれる可能性があります>

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意地悪な言い方をすれば本作はいわゆる難病モノ映画でもある。

武術家として最強の名を轟かせるイップ・マンだったが、地上げ屋に脅される学校や武術学校のことを優先するあまりに家族を置き去りにしていた。そうしている間に妻は癌を発病してしまい、余命が半年と宣告されてしまう。同じ頃、イップ・マンに挑戦しようとする武術家も登場し、メディアを使って対戦を煽っていた。

妻との残された時間と武術家としての信念。イップ・マンはその間で本当の強さを知ることになる。

普通ならこういった感動演出はアクション映画では足かせでになりかねない。愛や恋だけで敵を倒すことができるわけではない。そういった意味では、武術家である自分の生き方をひとまずは忘れ、妻と社交ダンスを踊り、つきっきりで介護するイップ・マンの姿はカンフー映画というジャンルには必要ではない要素と言える。

こんなイップ・マンが見たかったわけではない。イップ・マンが泰然と敵を投げ倒す姿をもっと見せてくれ。という言葉が喉からこみ上げようとする時、この映画のクライマックスが突然訪れる。

妻の病院からの帰り、薬を持ったままエレベーターに乗る二人の前に地上げ屋からの刺客であるムエタイ戦士が現れる。そして狭いエレベーター内でカンフーvsムエタイの接近戦が開始されるのだが、このシーンこそが本作の早すぎたクライマックスであり、純愛物語とカンフーアクションとのほとんど完璧な出会いの瞬間でもあった。

病気の妻に被害が及ばないように常に相手と向き合い、そんなイップ・マンを心から信頼する妻もまたそっと彼の持つ薬袋を受け取る。エレベーターが動いている最中は防御に徹し、扉が開くや否や敵を外へ蹴り出して妻だけを乗せたままエレベーターを動かす。そして次にエレベーターが開いた時には、扉の前ですでに敵を打ちのめしたイップ・マンが何事もなかったように妻を待っている。

こんなに美しいアクションシークエンスは滅多にお目にかかれるものじゃない。イップ・マンの妻への想いの美しさがアクションの激しさと完全に同期していて、フィリップ・マーロウの「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」という言葉の意味を完璧に描き切ったまさに名シーンと言える。

この美しさに比べれば後に描かれるマイク・タイソンとの異種格闘技戦も、マックス・チャンとのカンフー最強決定戦もエピローグにしか過ぎない。それで全然構わない。マイク・タイソンとの戦いが消化不良であることや、マックス・チャンとの戦いへの布石が不十分であるという欠点でさえも、エピローグでの出来事と考えれば問題ない。

だからと言って本作の構成がおかしいとは感じない。この映画はただ全てを終わらせることを目的とした作品ではない。もしそうならクラマックスを最後に持ってきて大団円で終わればいい。それは映画作りの常套であり、決して難しいことではない。しかし本作は「終わり」を描くことで文字通り物語を終わらせることを目的とした作品ではなく、「終わり」があることで初めて生まれてくる新しい可能性について描こうとしている作品だとするのなら、早すぎるクライマックスも十分に理解できる。

カンフーアクションからの引退を示唆するドニー・イェンも、妻の死を乗り越えるために次世代の育成に乗り出しあのブルース・リーを育てた本作の主人公イップ・マンも、「終わり」の次に生まれる可能性を信じているという部分で深く共鳴しているのだ。

一本の映画としては確かに完璧ではないかもしれない。それでも100本の良作を観たとしても出会えるか疑わしいほどの名シーンがあることも間違いない。そして『イップ・マン』という映画の終わりとしてもこれ以上はなかなか想像できない。

イップ・マンがなぜ強いのか?

彼よりも早い拳があっても、彼より重い拳があっても、彼を打ち負かすことができないのはなぜなのか?

その理由のすべては本作に描かれている。

『イップ・マン3(原題)』:

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ということでドニー・イェン主演『イップ・マン3(原題)』のレビューでした。ドニーさんに棒を持たせたら、もうそれで終わりです。『ローグ・ワン』はドニーさんが棒を持った時点でストーム・トゥルーパーがデススターの設計図をさっさと差し出してそれで終わるんじゃないのかと不安になってしまいます。世間では「ジョニー・デップって52歳なの、信じられなーい!」などと驚かれる方がいらっしゃるようですが、「ドニー・イェンって52歳なの、信じられなーい!」というのが正しい驚きというものです。そんなわけで『イップ・マン3(原題)』はオススメです。『ローグ・ワン』よりは早く日本公開してください。

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