映画『エルヴィス&ニクソン(原題)』レビュー

1970年12月に行われたニクソン大統領とエルヴィス・プレスリーとのホワイトハウスでの面会の裏側を描いた『エルヴィス&ニクソン(原題)』のレビューです。ニクソン大統領をケヴィン・スペイシーが、エルヴィス・プレスリーをマイケル・シャノンが演じた実録コメディ。本当のスーパーアイドル映画。

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『エルヴィス&ニクソン(原題)』

全米公開2016年4月22日/日本公開未定/コメディ/86分

監督:リザ・ジョンソン

脚本:ジョーイ・サガル、ハナラ・サガル、キャリー・エルウェス

出演:マイケル・シャノン、ケヴィン・スペイシー、アレックス・ペティファー、ジョニー・ノックスヴィル

レビュー

本作で描かれている「ザ・キング」エルヴィス・プレスリーとニクソン大統領との嘘みたいな会談は1970年12月に実際にあった。

当時、ビートルズやビーチ・ボーイズも人気だったアメリカでも別格だったのがエルヴィス・プレスリー。エルヴィスの別格さとは、人種や世代、そして出身地や思想などで分断が進んでいた当時のアメリカにあって大人から若者まで、そして北部から南部までくまなく広い支持を受けていたことだった。

そんなプレスリーが愛国心を「こじらせた」挙句に、アポなしでホワイトハウスを訪れて、ニクソン大統領に面会を要求。ドラッグとヒッピー文化が蔓延した社会に危機感を抱いたプレスリーが自分をFBIの覆面捜査官に任命してほしいと大統領に迫ったというのだ。コーエン兄弟あたりが書きそうなシナリオではあるが、これは実話なのだ。1970年12月21日の朝に、プレスリーはホワイトハウスのゲート前に現れ、面会を希望する手紙を守衛に渡すと、急転直下で即席の面会が実現。そこでプレスリーはニクソン大統領にコレクション用のコルト45をプレゼントすると、代わりに大統領はプレスリーにFBIのバッジをプレゼントしたという。

この事実は過去にドラマ映画化もされており比較的広く知られたものであるが、会談の内容については録音されておらず、プレスリーの急死とニクソンの失脚によって、ほとんど明るみになることはなかった。当時の写真は残されているものの、実際に会談した二人が死んでいるため、詳細な中身については分からない。

ならば再現すればいいじゃないか、ということでニクソン大統領役をケヴィン・スペイシーが、エルヴィス・プレスリーをマイケル・シャノンが演じることになった。ケヴィン・スペイシーは『ハウス・オブ・カード 野望の階段』で大統領役を経験済み。そして社会の腐敗に立ち上がるエルヴィス・プレスリーを演じるのはクリプトン星で正義感をこじらせたゾッド将軍を演じたマイケル・シャノン。他にもエルヴィスのPRマネージャーのジェリー・シリングを演じるのは、『マジック・マイク』のアレックス・ペティファーで彼は一時、『マッドマックス/怒りのデス・ロード』のワイヴズのひとりで本物のエルヴィスの孫娘ライリー・キーオと付き合っていたりもした。

というわけでシチュエーション・コメディとしては設定も配役も申し分なく、本当に安心して笑える良質なコメディとなっていた。

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アメリカ陸軍に徴兵されて軍人として活動した経験を持つエルヴィス・プレスリーは社会に憤っていた。自宅のテレビルームに並んだ複数のブラウン管から流れてくるのは、マリファナを吸ってばかりのヒッピーや、コミュニストたちのシンパによるデモ。銃を愛し、勲章をコレクションし、空手の黒帯を持つエルヴィス・プレスリーにとっては、それらは堕落の象徴でしかなかった。このままでは俺が愛するアメリカが腐っていく。そしてエルヴィスはPRマネージャーのジェリーを引き込んで、そのままワシントンに直行し、大統領に直訴するのだった。俺を「全州代表連邦捜査官(Federal Agent AT-LARGE ※そんなものは存在しない)」に任命しろ。俺が覆面麻薬捜査官として腐敗した連中を黒帯の空手ワザで撃退してやる、と。

いきなり現れたのが超スーパースターのエルヴィス・プレスリーということで俄然色めき立つホワイトハウスだったが、ニクソン大統領はエルヴィスなんぞには無関心で、会談しようともしない。それでも大統領の側近たちはエルヴィスを利用することでニクソンが人気のない若者層や南部からの支持は受けられると計算し、ニクソンに再考を促す。すると大統領の娘がエルヴィスの大ファンだったことから、サインをもらえるのなら、という条件でホワイトハウスに招くことを決定。こうしてエルヴィス・プレスリーとニクソン大統領の秘密の会談は実現したのだった。

もう最初から最後までメチャクチャで最高だった。

まずマイケル・シャノン演じるエルヴィス・プレスリーがメンフィス辺りにゴロゴロいる自称エルヴィス・プレスリーにしか見えない。でもその成りきり没頭感が、1970年当時のエルヴィスのスター性を表しているようで素晴らしかった。企画当初はエリック・バナがエルヴィス役に推されていたが、マイケル・シャノンで大正解。エルヴィスに似ているかと言えばあまり似ていないが、それはケヴィン・スペイシーのニクソンも同じ。役柄の個性を演じるという意味では両者とも適役だった。

本作ではエルヴィスとニクソンの会談がクライマックスなのだが、見どころはスーパースターのエルヴィスに周りが振り回されながらも、そんな彼らの方こそエルヴィスに振り回されることを願っているという不思議な心理状況を生み出すというスーパースターの特性が描かれているところだろう。偏屈なニクソン大統領でさえも、エルヴィスの前では一般人でしかなかった。世界の牛耳るアメリカのトップであるはずの大統領でさえも、思い通りにコントロールできないエルヴィス。それどころかいつの間にか、エルヴィスのファンにさえなってしまう。

最初は徹底してエルヴィスを拒絶していたニクソン大統領も、会談が進むうちになぜか彼と意気投合していく過程は本当に可笑しかった。どこへ行ってもキャーキャー言われるエルヴィスが、覆面警官になりたいと願いでること自体がどうかしているのだが、だれもそれを笑い飛ばすことはない。「エルヴィスが私に助けを求めているのだから何とかせねば」という妙な使命感を生むことになり、その集積がやがて本当に大統領執務室まで届くことになる。

ホワイトハウスを揺るがしてまでエルヴィスはなぜ「全州代表連邦麻薬覆面捜査官」などという意味不明なポストを欲しがったのか?

その理由は映画のラストでバッジコレクターだったエルヴィスの幸せそうな姿を見ることでよくわかる。このためだけで周りの人間を困らせ、そして大統領まで動かしてしまうエルヴィス・プレスリー。「スーパースター」という呼称はエルヴィスにこそ似合うもので、彼を前にすればビートルズであっても誰であっても「スター」止まりなのだ。

これぞ本当のアイドル映画。エルヴィスの前にスーパースターなし、エルヴィスの後ろにもスーパースターはいないのだ。

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