ブラピ&アンジー主演『白い帽子の女』レビュー

アンジェリーナ・ジョリーが監督・製作・脚本・主演を務め、10年ぶりにブラッド・ピットと共演した『白い帽子の女』のレビューです。南仏のリゾート地を舞台に、塞ぎ込んだ妻とアルコール依存気味の夫の揺れ動く関係を描いたドラマ映画。

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『白い帽子の女』

全米公開2015年11月13日/日本公開2016年9月24日/ドラマ/122分

監督:アンジェリーナ・ジョリー・ピット

脚本:アンジェリーナ・ジョリー・ピット

出演:アンジェリーナ・ジョリー・ピット、ブラッド・ピット、メラニー・ロラン、メルビル・プポー、ニエル・アレストリュプ

レビュー

ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーによる『Mr.&Mrs.スミス』での夫婦役以来、実に10年ぶりとなる共演作となった本作。『不屈の男 アンブロークン』でもメガホンをとったアンジェリー・ジョリーが、初めて「アンジェリーナ・ジョリー・ピット」という名前をクレジットして、監督・脚本・製作・主演を務めている。

作品の撮影は二人がハネムーンで訪れたマルタ島で行われており、『Mr.&Mrs.スミス』での燃え上がるように激しい夫婦関係から、実生活でも伴侶となった二人が10年ぶりに演じる関係とは、生々しく壊れていく倦怠期の夫婦の姿ということで話題性も十分だった。

にも関わらず、配給元のユニバーサルは本作を限定的な公開に止め、全米では54万ドル程度、全世界でも300万ドルを少し超える程度の興行に終わった。その理由は本編を見ればよくわかる。評価以前に、どう転んでもヒットは望めない作品であり、仮にブラピ&アンジーを前面に押し出したプロモーションでミーハーな観客を集めたとしても、本作にはミーハーな要素は一切なくスクリーンと客席のミスマッチを煽るだけで、結局は酷評されて終わるはずだった。それならば間口をできるだけ狭くして、それでもスクリーン上で変化していく二人の夫婦関係を「覗き見」したい人にだけ観られるようにしたほうがいい。もともとブラピとアンジーが個人的に製作したような作品で制作費も1000万ドル程度。ユニバーサルからすればアンジーに借りは作れど、痛くもかゆくもない結果なのだ。

こういった背景を聞けばとんでもない地雷映画のような印象を持たれるかもしれないが、『白い帽子の女』は、「何も起こらないが丁寧なヨーロッパ映画」に免疫がありさえすれば、無下に酷評してドブに捨てるような作品でもなかった。サスペンス風夫婦ドラマとして、なかなかよくできている。

舞台は1970年代の南仏のリゾート地。アメリカ人の小説家ローランド(ブラピ)は妻ヴァネッサ(アンジー)と一緒にバカンスで訪れる。小さな浜辺の村のホテルに滞在し、夫ローランドは小説を執筆をしようとしているが、妻ヴァネッサは塞ぎ込んで部屋からほとんど出ようとしない。二人は悲しい過去を理由に、ギクシャクするようになっていた。ローランドは暗い妻から逃げるように浜辺のカフェに入り浸り、アルコールを煽るようになる。

そんなある日、隣の部屋に若い新婚のカップルがやってくる。肌を寄せあう事もなくなった自分たちとは対照的に、情熱的な新婚カップルを死んだような目で見つめるヴァネッサだったが、ふとしたことから隣の部屋の寝室へとつながる覗き穴を発見する。いつしかヴァネッサは、隣のカップルを盗み見ることをやめられなくなっていく。

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(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

ヴァネッサは悲しい過去を理由に夫を拒絶するようになり、そんな妻を心から愛しながらもその想いが通じないことに苛立ち、恐れさえも抱くようになったローランドは酒に逃げ込むようになる。傷つき心を失っていく妻を夫は何とか受け入れようと努力するもから回る。やがて二人の精神状態は危険なものとなっていくが、そんな時に現れた、隣の部屋に続く覗き穴が、奇妙にも二人の関係を変えていくことになる。

ヴァネッサは覗き穴を通して見る新婚カップルの男に、過去のローランドの姿を探し出し、同時に夫ローランドにとってはその女の姿に過去の自分を重ねていると疑うようになる。隣の性生活を覗き見することで変わっていった二人の夫婦関係は、徐々に危ういものへと変質していく。

全編の半分ほどの会話がフランス語で交わされ、映像も色彩を抑えて落ち着いたトーンになっているまさにアート系映画。覗き穴を通して徐々にストーリーは展開していくも、サスペンスというほどに劇的なことは起こらず、基本的にローランドとヴァネッサの喧嘩が形を変えて描かれる。脚本で作品を判断する傾向が強いハリウッド映画においては、本作のように何も起きない映画は退屈だと受け取られるし、実際にどこかの夫婦の喧嘩など基本的に退屈なものだろう。

しかし本作でその夫婦を演じるのは世界で最も注目される夫婦でもあるブラピとアンジー。どうしてもスクリーン上の危うい夫婦の姿に現実の二人の関係を重ねてしまいたくなるし、こんな脚本を書いて相手役を実の夫に任せたアンジェリーナ・ジョリーの魂胆も想像したくなる。こういったアート映画のような面持ちでありながらもハリウッドゴシップを観客に連想させる構造はなかなか面白かった。こうやって映画を鑑賞するということは誰かの生活を覗き見することと同じですよ、と言わんばかり。

乱暴を承知で表現すれば本作は「メンヘラ妻」の物語で、ある日発見した覗き穴を通して、メンヘラではなかった過去の自分を見出してしまうというお話なのだが、やはり「メンヘラ」という設定をアンジェリーナ・ジョリーが演じてしまうと、物語を超越したリアリティが生まれてしまっている。

これを評価するかしないかで本作への感想は随分と変わってくるだろう。つまり、そんな「メンヘラ」の物語でさえもアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットが演じれば美しくなると受け取るのか、それともただ美しく見せたがっているからアート系映画風に仕上げたとも受け取ることができる。壊れていく妻アンジェリーナ・ジョリーも、その夫でアルコールに依存するようになるブラッド・ピットも、それぞれがどうしようもできないほどの不幸を背負いつつも、アートのように美しい。

アンジェリーナ・ジョリーがブラッド ・ピットと生々しい濡場を演じ、若いカップル役で登場するメラニー・ロランも大胆な演技を見せる一方で、やはり過剰に美しすぎるというのは欠点だとも感じた。細部は非常に丁寧で、男と女が抱く愛情の性質の違いもうまく描いていた。だからこそ観客にも映画という覗き穴を通して自分たちの夫婦関係を見せようとするのなら、美しくない生々しさも演出してもらいたかった。

『白い帽子の女』:

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白い帽子の女
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3
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