映画『10 クローバーフィールド・レーン』レビュー(ネタバレあり)

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J・J・エイブラムス製作の謎の作品『10 クローバーフィールド・レーン』のレビューです。モンスター映画『クローバーフィールド HAKAISHA』とDNAレベルで繋がったパニック・スリラー。ある日見知らぬ地下シェルターで目覚めた女性がやがて知ることになる戦慄の真実とは?

『10 クローバーフィールド・レーン』

全米公開2016年3月11日/日本公開2016年6月17日/SF/107分

監督:ダン・トラクテンバーグ

脚本:ジョシュ・キャンベル、マット・ストゥーケン、デミアン・チャゼル

出演:メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョン・グッドマン、ジョン・ギャラガー・Jr.

レビュー 「サプライズとサスペンスが手を組んだ悪魔的作品

2016年1月15日に全米公開されたマイケル・ベイ監督作『13 Hours』の本編前予告編として突如発表された『10 クローバーフィールド・レーン』は、そのタイトルから2008年のモンスター映画『クローバーフィールド HAKAISHA』と関係することは明らかだった。しかしJ・J・エイブラムスはその後のインタビューで『10 クローバーフィールド・レーン』が『クローバーフィールド HAKAISHA』の続編だという噂をこう修正した。

単純な続編ではなく、あくまで精神的、DNAレベルで繋がった作品。だから僕らはこの映画を決して『クローバーフィールド2』とは呼ばない。でも関連はあるし、その根拠だってしっかりと存在している

全米3000館以上で公開される映画がその2ヶ月前になって初めて存在が明らかになるということも異例なら、まだ『スターウォーズ/フォースンの覚醒』の余韻が続く中でのJ・J・エイブラムスによる周到な仕掛けや、手の込んだバイラル・キャンペーンなど本作にはサプライズで溢れている。

そして2008年の『クローバーフィールド HAKAISHA』(2008)では謎のモンスターが市街地で大暴れする姿を描いておきながら、それが一体何なのか、そしてその後の世はどうなったのか、という経緯や結末が一切語られることがなかった。つまり映画のなかで描かれたミステリーが解明されることがないまま幕は閉じられ、その謎は「サスペンス(宙づり)」状態のままだった。故にファンたちはその続編を待ち望んでいた。

矛盾を恐れず表現すれば『10 クローバーフィールド・レーン』とはサプライズとサスペンスが共存した稀有な映画だと言える。

本来、サプライズとサスペンスとは映画内では水と油の関係に近い。その違いについてもっとも意識的だったのがヒッチコックで、『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』では「テーブルと爆弾」というシチュエーションを用いて説明している。曰く、サスペンスとは観客がそのテーブルに爆弾が仕掛けられていることを承知している状況で引き延ばされる緊張感であり、どんな他愛のない会話でも背景に然るべきサスペンスがあれば観客が退屈することはないと言う。一方でサプライズとはそのテーブルに爆弾が仕掛けられていることを観客が知らない状況から生まれるもので、爆発の瞬間の驚きは大きいがその時間は短く、他愛のない会話は退屈なものでしかない。

そのため観客には出し惜しみすることなく状況を教えることがサスペンスには必要だとヒッチコックは説く。その言葉の限りにおいては『10 クローバーフィールド・レーン』はサスペンスとは呼べない。

物語はミシェルという名の若い女性が夜中に運転する車が突如暗転することから始まる。タイトルに「クローバーフィールド」とつく映画ゆえに、怪物にでも遭遇したのだろうか? そして次の瞬間、彼女はコンクリート造りの粗末の部屋の中で目覚める。腕には点滴が打たれ、足にはギブスが、そして片腕は手錠で繋がれている。そこはどこなのか? 一体なぜ彼女はそこに繋がれているのか?

観客は彼女の視点で物語を同時的に追体験することになる。

やがてミシェルの前にジョン・グッドマン演じる大男が現れる。そして彼はミシェルにこう説明する。「外の世界は何かに襲われたため汚染されている」「私は君は捕まえたのではなく、命を救ったんだ」「外に出ることは許さない」、、、

最初はミシェルも疑いをもって聞いていた男の言葉だが状況の変化によってそのいくつかは本当だと理解することになる。しかし全てが本当のわけでもない。男は大事な何かを隠している。では何が本当で、何が嘘なのか?

観客は主人公ミシェルと同じ認識でしか世界の状況を把握できない。これはヒッチコックに言わせればサスペンスではなく、サプライズのための状況設定でしかない。勘のいい観客ならすぐに気がつくはずだ。『10 クローバーフィールド・レーン』の最後にはサプライズ展開が待っている、と。

しかし本作はただのサプライズ映画でもない。J・J・エイブラムスがその関連を認めるように、『クローバーフィールド』(2008)で描かれたまま解決されなかったミステリーの状況設定が本作にはそのまま持ち込まれている。つまりモンスターに襲われた世界はどうなってしまったのかというミステリーが最初から見えない縦軸として埋め込まれており、それが本作の緊張感を途切れさせない役割を担っている。

ヒッチコックの話に戻れば、観客がサスペンスに関するの状況説明を受けている状況では、例え物語に直接関係しないような会話のなかにも意味を求め、自然と物語の内部に参加することになる。爆弾の存在を知らずに悠長に会話する主人公らに向けて「そんな話をしている場合じゃないぞ、そこに爆弾があるんだぞ!」と感情移入してしまうのだ。重要な情報は登場人物よりも必ず先に観客に明かす「遅延」という手法がサスペンスの肝となる。そしてサプライズに頼った映画ではこの観客を物語内に取り込むようなサスペンスの魔力は働かない。そこに爆弾があることを観客は知っていれば、爆発は簡単に予期でいてサプライズ(どんでん返し)にならないからだ。

本作は『クローバーフィールド』(2008)との関連を取っ払えば、地下シェルターに閉じ込められた女性の脱出劇でしかない。ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の『キューブ』(1997)以降、うんざりするほど使い回されてきた密室サプライズ映画の亜種でしかない。

一方で本作は「クローバーフィールド」という謎のキーワードによって誇張され「サスペンス(宙づり)」になったままの巨大なミステリー装置の一部でもある。物語の主だった舞台となる地下室の外側では巨大なエイリアンたちが暴れまわっているのかもしれないという事実が登場人物たちよりも先に予め観客に与えられている。おかげで劇中で交わされる駄話や、『Cannibal Airlines(人食い航空)』という架空のB級映画、予告編でも流れるサウンドトラック『I Think We’re Alone Now(ふたりの世界)』などに必死なって意味を求めずにはいられない。ヒッチコックが言うサスペンスに必要な「遅延」効果が、「クローバーフィールド」というキーワードを持ち出すことで反射的に働いてしまうのだ。

J・J・エイブラムスは恐ろしいことを考える。

彼は本作を『クローバーフィールド』とDNAレベルで繋がった作品と称したが、これはまったくのデタラメだ。少なくとも『クローバーフィールド』と本作『10 クローバーフィールド・レーン』は生まれながらにした血縁関係などない。本来は交わることのなかった同士だ。正確には『10 クローバーフィールド・レーン』とは『クローバーフィールド』(2008)の続きを描くために無理やり、そのDNAを埋め込まれたクローンのような映画だと言える。そもそも結末を描く気などなかったはずの『クローバーフィールド』にもう一度新しい価値を与えるために、作り出されたクローンだ。そしてその悪魔の手術を執刀したのはJ・J・エイブラムスに他ならない。

『10 クローバーフィールド・レーン』そのものは大した価値のない映画だ。しかしこの映画はその結末(死)によって本来は全く別の映画を甦らせたという意味で恐ろしい。本作のエンディングを迎えた時、観客はその続きへの関心を上回る欲求で『クローバーフィールド』(2008)の続編を欲さずにはいられないのだ。本作に埋め込まれた『クローバーフィールド』のDNAとは宿主を変えることで更に増殖していくことになるのだろう。

『10 クローバーフィールド・レーン』:

<ストーリー前半(ネタバレ)の解説はさらに下へどうぞ。ストーリー後半(モロバレ)は次のページに分割しています>

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10 cloverfield lane still 1

<ここから『10 クローバーフィールド・レーン』のネタバレ前半となります。モロバレは次のページですが、映画を観てからでも遅くないですよ>

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恋人と口論の末に車で何処かへ向けて走り出したミシェルは、その途中で何かと衝突し意識を失ってしまう。

目が醒めるとミシェルはコンクリートの無機質な部屋に繋がれていた。怪我した足にはギブスがはめられ、点滴が打たれている。携帯電話で助けを求めようとしても電波が届いていない。

すると部屋に大男が入ってきた。男はハワードと名乗り、恐怖に震えるミシェルを冷たく見つめたまま食事を与える。そして「私は君はここに匿ってやっているんだ。外にはもう出れない」と告げる。やがて体力も回復してきたミシェルは、閉じ込められている地下室のなかを歩くことを許される。そこにはハワードとは別の若い男がいた。エメットと名乗り彼もまた腕を負傷していた。ハワードよりも愛想もよいエメットの存在に安心したミシェルは、ここから脱出しようと持ちかけるが、エメットはハワードと同じように外には出られないと言う。エメットはハワードが説明するように「何かが」地上を襲うのを実際に見たのだという。

どうしても信じられないミシェルはハワードを怒らせた隙に外に繋がる扉の鍵を盗み、 外に逃げ出そうとする。しかしその時、扉の外には一人の肌のただれた女が狂ったように中に入れるように暴れていた。そして追いかけてきたハワードはミシェルに「絶対に扉を開けるな!」と叫ぶ。この時、ミシェルはハワードの言葉は真実だったことを知る。世界は突如として激変していたのだ。

結局、地下室の世界に戻ったミシェルは、ハワードとエメットの3人での生活を開始する。ミシェルが殴ったことでできたハワードの傷を縫うなど親密になっていくが、ほどなくしてミシェルはハワードが必要のない嘘をついていることを知る。ハワードは善人などではない。それどころか過去に少女を拉致監禁していた可能性まで浮上する。だとすれな設備のそろった地下室や、ミシェルにぴったりの女用の服があったことも説明がいく。

再び恐怖を感じたミシェルはエメットと二人で地下室から脱出するために、ハワードには内緒に防護服とガスマスクを手作りする。しかしその計画もやがてはハワードにバレてしまうのだった。

『10 クローバーフィールド・レーン』のネタバレ後半ページへはここから

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