『ターナー、光に愛を求めて』レビュー ★★★★

舞台的手法で有名な巨匠マイク・リー監督作『ターナー、光に愛を求めて』のレビューです。主演は『ラストサムライ』や『ハリー・ポッター』シリーズで知られる個性派俳優ティモシー・スポール。19世紀にイギリスで活躍したロマン主義の画家、J・M・W・ターナーの激動の半生を描いた作品。カンヌ映画祭男優賞を受賞し各種批評サイトから絶賛されたティモシー・スポールの演技は必見。

MrTurner Final

『ターナー、光に愛を求めて』

2014年全米公開/日本公開2015年6月20日

監督/脚本:マイク・リー

撮影:ディック・ポープ

出演:ティモシー・スポール、ドロシー・アトキンソン、マリオン・ベイリーなど

上映時間:150分

あらすじ

18世紀末から19世紀にかけてイギリスで活躍した画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー。

彼はロイヤル・アカデミーのメンバーでありパトロンに恵まれながらも、その特異な行動から奇異の目で見られることもしばしばだった。尊敬する父の死を経験や、世話を任していた皮膚病を患うメイドからの 秘めた愛、そして彼の最後を看取った女性の姿を通して、カンバスに光を写し出すことに人生を費やした一人の画家の半生を描く。

レビュー

誰にも言えないヒーローとしてのウィルアム・ターナー:

ヒーロー映画の役割が主人公の卓越した能力や才覚を前に、「自分もああなりたいな」と観客を無邪気に陶酔させることだとするのなら、伝記映画の役割はもう少しシリアスに、「自分もああなりたかっけどやっぱり無理だった」と思わせることなのかもしれない。もちろんヒーロー映画のような伝記映画もあるし、伝記映画のようなヒーロー映画もあるから両者を完全に隔てることは難しいが、『ドラゴンへの道』と『ブルース・リー物語』を比べれば分かるように、やはり確実に差異は存在する。

本作『ターナー、光に愛を求めて』は実在の画家の半生を描いた伝記映画である。決してヒーロー映画ではない。主人公の画家ターナーは控えめに言ってもなかなか普通じゃない男だ。メイドを性の対象と見ながらも女としては扱わない。嵐の絵を描くために船のマストに自分を縛り付けて体を壊す。父親が死んでから売春宿に行って泣きながら絵を描くし、自分が孕ませた子供を絶対に認知しようとしない。そしてなによりブサイクだ。こんな人間、当たり前だが、ヒーローではない。

しかし不思議なことに、2時間半という長い物語で描かれるターナーの奇妙な一生を前に、「もしかすると自分は本当はああなりたかったのかもしれない」と意識し始めるようになる。その感覚はアメリカン・ニューシネマに描かれる退廃的で破滅的なヒーローに憧れる感情とも違い、より静的で個別的な、自分自身がどこかに行き着いてしまったことで再構築された憧れと言えるかもしれない。

2時間半のなかで描かれるのは画家ターナーの半生の断片であり、殊更エキセントリックなエピソードだけが強調されているわけではない。自分の家、ギャラリー、チェルシーの海辺の部屋とほとんど変わらぬ背景で過ぎていく人生の過程を描いており、まさにマイク・リー的な演劇世界と言える。そこで描かれるのは、普通で、時に卑小で無神経で、それでいて熱心で情に深いひとりの画家の姿だ。金に全てを売り渡すことなく、誰かを愛し、誰かに愛されたまま死んでいったひとりの男の姿。

カンヌ映画祭男優賞を筆頭に多くの賞を受賞したティモシー・スポールの演技は、エディー・レッドメインがホーキング博士を演じアカデミー賞を受賞したような実在の人物を可能な限り正確に再現する作法とは違い、150年前に死んだ誰も彼の本当の姿を知り得ない人物を演じている。豚のように喉を鳴らし、周りから敬意を払われながらもそれ以上にバカにされたりもする。しかしそんな「ああなりたくない」醜い彼が、自分を見失わずに、思いのままに誰かを愛し誰かの愛を無視し続ける姿に接すると、世間や体面を気にせずには生きられない普通の自分の方がずっと醜く思えて、本当は「ああなりたかった」と気付かされるのだろう。

多かれ少なかれ映画は観客に夢を見せてくれるが、『ターナー、光に愛を求めて』は本当は隠していたい自分の憧れを見せつけてくるようだった。そして映画の最後には、ターナー自身の絵が晩年になるに従い光で満たされていったように、そんな憧れさえも本当は隠す必要がないことに気づかされる。邦題にあるように「光に愛を求めて」いる作品かはよくわらからないが、少なくとも映画の最後、ターナーは光に満たされている。そして観客もまた然りだ。

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ということで『ターナー、光に愛を求めて』のレビューでした。本作は全米公開前にソニーのハッキング騒動で流出してしまうなど散々なスタートを切ったのですが、前評判通り素晴らしい映画でした。2時間半の長い映画で、劇的なストーリーがあるわけでもないのに、全然飽きることはありません。マイク・リーの演出の賜物です。そして彼の絵を思わせるような美しい風景の数々が物語に開放感を与えており、劇場の大きなスクリーンで見ることを強くお勧めします。

日本公開は2015年夏に予定されており、この作品を見てからターナーを絵を見るとすごく愛しく思えてきます。オススメです。

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