映画レビュー|『マックス/MAX』-もちろん犬は悪くない

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『マックス/MAX』

全米公開2015年6月26日/日本公開未定/アメリカ映画/111分

監督:ボアズ・イェーキン

脚本:シェルドン・レチッチ、ボアズ・イェーキン

出演:ジョシュ・ウィギンズ、トーマス・ヘイデン・チャーチ、ロビー・エイメル他

あらすじ(ネタバレなし)

軍用犬としてアフガニスタンで活動していたマックスは、ハンドラーのカイルと種族を超えた友情を結んでいた。しかし不正な武器売買の証拠をマックスが発見したことをきっかけに、ある日戦場でカイルとマックスらは襲撃を受けてしまい、マックスは負傷しマイルは帰らぬ人となってしまう。

カイルの死に戸惑いを隠せない家族だったが、カイルの弟ジャスティンもまた誰にも理解されない痛みを感じていた。そしてカイルの親友だったマックスもまたカイルを亡くしたことからPTSDを煩い精神的に不安定になり殺処分を待っていた。そしてマックスとジャスティンはカイルの葬儀で初めて出会う。

誰にも理解されない痛みを抱えた犬のマックスと少年ジャスティン。彼らは互いの痛みを癒しながら成長し、カイルの死の真相を暴くためにともに戦うことを決意する。

レビュー

PTSDを問題を家族向け映画で描いた結果、、、:

PTSDという言葉な流通する前にも野心的な映画では戦場を経験した者たちの帰国後の変異を描いてきた。『タクシー・ドライバー』のトラヴィスや『ディア・ハンター』に『ランボー』などPTSDという言葉が広く知られる前から戦場の病理が映画で描かれている。それでも最近の戦争を扱う映画の多くがPTSD問題をこぞって描いているのを見ると、帰還兵のストレス障害の問題は現代アメリカが直面する切実な問題であることもわかる。2008年の『ハート・ロッカー』では戦場が兵士にもたらす変異が中毒的であることが描かれ、2009年の『ブラザー』ではトビー・マグワイアが戦場を経験する 前と後を演じている。そして2014年のイーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』の記録的大ヒット以降、スピルバーグもこのテーマと取り組むことが決定するなど、ある種のブームとも言える状況がハリウッドにおきている。

本作『マックス/MAX』 は、戦場で人間のパートナーを失ったために心に深い傷を負った元軍用犬マックスと、その死んだ兵士の弟ジャスティンが、互いの傷と向き合いながら絆を深くしていく癒しの物語となっている。

優秀な軍人の兄と比べられることで家族に反発するジャスティン。そしてその兄のパートナーとして強固な信頼関係を築いていた軍用犬のマックス。ある日、戦場で不可解な出来事がおき、その流れの中でマックスは負傷、ジャスティンの兄でマックスの相棒であったカイルは死んでしまう。以後、マックスはそれまでの性格が嘘のように不安定な状況に陥ってしまい、殺処分の直前にジャスティン家族に引き取られることになる。こうして誰にもその苦しみを理解してもらえない一人の少年と一匹の犬は導かれるようにして出会い、そして互いを癒していく。

戦場がもたらす変異とは決して人を選ばない。それどころか人間以外の動物までも変えてしまうという視点は非常に新鮮に思える。ドラマ映画としてテーマを明確にしてプロットを吟味すれば、それこそ『アメリカン・スナイパー』以降活発になっているPTSD問題を扱う映画のなかでも異質であり上質な作品になることも期待できる。しかもワンちゃんがメインの映画だ。犬嫌いな人間は基本的にすでに死んでいるも同然と聞いたことがあるから、傷ついた犬の物語となれば全世界で暮らす全犬好きが興行のターゲットにもなる。

これは期待できるぞ、マックス。ウー、ワン、ワン。

結論から言えば、全然そんな映画じゃなかった。途中からPTSDとかどうでもよくなる、単純なワンちゃん大活躍の家族向け映画だった。しかも「家族向け」という表現も「家族みんなで感動できる」という良心的な意味ではなく、「家族の絆を描いた映画でも一緒に観ないと家族の絆が深められない似非家族」に向けた、なんとも商業的で薄っぺらい打算的な映画だった。英語で一言表現すると「チージー/ Cheesy」、とにかく安っぽくて嘘くさいのだ。

本作にはマックスの元相棒でジャスティンの兄であるカイルの真相を巡るサスペンス要素が途中から全面に顔を出すようになる。そしてそのサスペンスを解決するのは犬とその家族。もろに『名犬ラッシー』なのだ。PTSDという最新のテーマでありながらも、骨格は『名犬ラッシー』というクラシカルぶりである。ある意味アメリカ人らしい感性かもしれないが、もうちょっと頭を使ってほしい。この食い合わせはどう考えても悪いことくらい誰も気がつかなかったのか。PTSDを描いておきながら傷ついた元軍用犬マックスが具体的に何を経験してそこから這い上がって来れたのか、という経緯は丸ごとないことからも『アメリカン・スナイパー』の大ヒットで気を良くしたワーナー・ブラザーズが無理くりPTSDを盛り込んだような気がしてならない。というかPTSDというのは一種の「釣り」としか思えない。

PTSDという現実的な苦悩を、ハッピーエンドで終わる事が事前に決定しているジャンルの映画で描いていいものなのか意見は分かれると思うが、どちらにせよ映画としてはPTSD抜きにしても安っぽすぎる。最初と最後だけがはじめにあって、その過程は後からでっちあげればいいという考えが透けて見える。ここでいう最初とはPTSDで、最後とはハッピーエンド。これは今現在でも苦しむ患者を想定してつくられているとは思えない。『アメリカン・スナイパー』のヒットに便乗しておきながら、テーマ部分では正反対のことを描いているのだ。つまり家族がいればすべてOK。なんだよそれ。クリス・カイルは家族がいても死んだんだよ。しかも劇中で死ぬ兵士の名前はカイル。この映画を作った連中は配慮という言葉を知らないのだろうか。

もちろんこの手の映画で感動できる人はそれでいいし、家族向け映画をしかめっ面で見る方がおかしいという意見もあるだろう。でも本作はPTSDを患う元軍用犬の物語であることを全面で押し出した映画であり、当然社会批判が込められていると考える。我々日本人からして見てもPTSDは無縁の病理ではなく、最近ではイラクに駐屯した自衛隊のなかにも任務後に自殺した隊員が複数いることが確認されており、また犬の観点からでも震災後には多くの飼い犬たちが不安定な状況になったことも広く知られている。そういった背景を踏まえれば、本作の評価は、たとえ「家族向け」というエクスキューズがついたところで何も変わらない。犬の救済をテーマにしているようで、実は犬を酷く軽んじた内容となっており話にならない。

本当は最低評価の星1つでもよかったのだが、劇中のラストに描かれるマックスと悪そうな犬との決死の対決シーンが、どうみても楽しそうにじゃれ合っているようにしか見えなくて、そこに人間存在の根源的汚れと相反する純なる野生の無垢を見たように気がしたような気がしないでもなかったので星2つとした。監督のボアズ・イェーキンはイーライ・ロスの『ホステル2』 の製作総指揮もしているということで、もしラストにマックスが本格的に狂って家族もろとも皆殺しにしていれば星5つとなったところだったが残念ながらそんなことはおきない。本当は犬版『アメリカン・スナイパー』ではなくて、犬版『ローリング・サンダー』にすべきだったのだろう。ちなみに1977年の『ローリング・サンダー』という映画も大変に心温まる作品なのでお勧めしたい。

まあ、何にせよ、安っぽい映画です。

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ということで『マックス/MAX』のレビューでした。同じマックスでも、やっぱりマッドな奴のほうがいいですね。犬はとても可愛いんですが、ワザとらしい見え透いた仕掛けばかりが目につき話になりませんでした。このような類型的な家族向け映画として何か新しい要素が欲しかったのでしょうが、PTSDという設定が全く生かされていませんでした。マックスはもっと怒っていいはずです。それでも犬好きな人にはPTSD抜きで楽しめるかのしれませんので機会があればご確認ください。以上。

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2 件のコメント

  • PTSD PTSDって、誰もそんな部分にこだわってわんちゃん映画見てないよ。わんちゃん映画ってのはどんなテーマだろうが本当に犬好きの人間が見るもんで、わんちゃん達ががんばって演技してるってだけで感動できるもんなのよ。だからね、そんなくだらないことガタガタ言うくらいなら動物もんの映画は二度と見ないことだね。死ぬまで戦争映画見てれば?以上。

    • BIGBOZEさんへ。
      「誰もそんな部分にこだわってわんちゃん映画見てないよ」ということですが、PTSDはアメリカでは大問題で実際に多くの帰還兵が苦しんでいる現実的な問題ですよ。「そんな部分に」こだわっているレビューは他にも山ほどあります。英語を読めるかどうかわかりませんが、PTSD,MAXとあなたの前にあるパソコンに打ち込めばでてきます。
      言われなくても死ぬまで戦争映画見ますよ。

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