映画レビュー|『マングルホーン』-退屈だから価値のある老人の独り言

Manglehorn poster

『マングルホーン/MANGLEHORN』

全米公開2015年6月19日/日本公開未定/アメリカ/97分/ドラマ映画

監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン

脚本:ポール・ローガン

音楽:エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、デイヴィッド・ウィンゴ

出演:アル・パチーノ、ホリー・ハンター、ハーモニー・コリーン、クリス・メッシーナ他

あらすじ(ネタバレなし)

しがない鍵屋のマングルホーン(アル・パチーノ)は一匹の猫と暮らす孤独な老人。過去に去っていったクララという女性を忘れられずにいる。

金銭的に成功したものの疎遠な息子、毎週顔をあわせる受付嬢、息子の同級生の麻薬密造社、そして一匹の猫。

日々の単調な暮らしのなか、老いたマングルホーンの孤独は袋小路に向かっていく。

レビュー

老人の独り言とは退屈ほどに価値がある:

アル・パチーノ主演で2014年のベネチア国際のコンペ作でもある『マングルホーン』は、自分の過去以外に興味を失った老人の呪詛のこもった独り言のような、とても不思議な作品になっていた。

監督はベルリン映画祭で銀熊賞を受賞した『セルフィッシュ・サマー』と、ニコラス・ケイジを主演に迎えた傑作南部映画『ジョー/JOE』(日本未公開)で新境地を開いたデヴィッド・ゴードン・グリーン。個人的には大変期待している若手監督のひとりだ。

デヴィッド・ゴードン・グリーン監督が前作『ジョー』でニコラス・ケイジ演じる主人公の性格や鬱屈などを日常の些細な仕草や態度から丁寧に描いて見せたが、本作でもアル・パチーノ演じる老人マングルホーンの病としての孤独の深刻さを彼の退屈な日常から描いている。猫を溺愛する姿や、実の息子に対して「お前は望まれた子供じゃない、お前の母親を愛したことなんてないから」と言い放つマングルホーンはどうみても普通じゃない。一方で唯一の孫娘に対しては驚くほどにフェアでいいおじいさんでもある。こういった彼の分裂気味な性格を本作では映像技術を駆使して表現しようとしている。

マングルホーンとは死ぬために生きている老人にほかならない。残された生を、過去を懐かしむことでしか消化できない孤独な老人。未来に希望がないことが明白なため過去に希望を見出そうと、遠い過去に愛した女性にロマンチックな手紙を書き続ける日々。もちろん彼女から返信はない。しかしそれはマングルホーンいとって都合のいいことだった。彼女から返信がこない間は、彼の過去への希望は生き残り続ける。彼にとって希望とは成就することが目的ではなく、自分が死ぬまで未達成の希望として居残り続けることだった。だからマングルホーンは彼の眼の前に存在する確かな人々には関心がまるっきりない。実の息子は言わずもがな、彼に気があることが示唆される受付嬢(ホリー・ハンター)に対しても、この先どうなるのかという希望は持っていない。たとえ持っていたとしても、過去に生き続ける女性を優先するため、現実の女性ではどうにもならない。

本作はマングルホーンの孤独を丁寧に描いている。しかしこれが恐ろしいほどに退屈だった。アル・パチーノの出演作は近年になって玉石混交の傾向が以前より強まっているので、しょうもない映画に彼が出演していてももう驚かなくなっているのが実際だろう。しかし本作はそういった単純にスベっているコメディ映画とは違って、そもそもが老人の退屈を描くことを目的としているように見える。

ストーリーそのものは孤独な老人がこれまでの半生を回顧して新しい道を歩みだす、という高齢者向け「明日への希望」系映画なのだが、その細部はサイケデリックで、マングルホーンの人柄同様に常軌を逸している。虚実入り乱れる描写や、マングルホーンの心象風景そのままを方法化したような落ち着きのないカメラワークなど、明らかに見易い映画ではない。また映像内にはミツバチや枯葉や木々など、老成と交代を象徴するようなカットがこれ見よがしにインサートされる。どうやらデヴィッド・ゴードン・グリーン監督は「世代の移り変わり」というテーマと取り組んでいるようで、特に『ジョー』でも木々(Trees)を印象的なメタファーとして映像内に配置していたが、本作でもその傾向がはっきりと見て取れる。

それでも本作は退屈なのだ。意味ありげな会話とナレーションがひたすら続き、マングルホーンの日常の奇妙さだけがストーリーの推進力になっているため、物語全体の印象がとにかく薄い。各プロットを繋ぐのは物語上の要因ではなく、マングルホーンのエキセントリックさということで、良くも悪くもアル・パチーノの独り言に付き合わせれているだけに感じる。また印象的なメタファーの数々もわざとらしくて逆に嫌気がさす。特に心を閉ざした老人の職業が鍵屋とか、「あなたの心の扉を開きます」くらいに胡散臭い。

老人の昔話と独り言ほど悲しいものはない。それは老人たちが抱える孤独の自己肯定の一種であり、マングルホーンのつまらない昔話も同様に、彼が死ぬために生きるのに必要な行為のようにすら映る。老人の鬱屈と退屈を、正面切って鬱屈した退屈な映画として描くということは文字にすれば実験的に映るが、本当のところは主人公の行動から物語レベルを引き上げることができていない。

一方で老人の話は退屈でもとにかく聞いておくべき、という考えもある。それはたとえ退屈で反面教師としての作用しかなかったとしても教訓としての価値はあるということなのだろう。だとするのなら本作もまさに老人の独り言同様に、どうしようもなく退屈な話だが聞く(観る)価値はある映画と言えるのかもしれない。

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ということでアル・パチーノ主演、デヴィッド・ゴードン・グリーン監督最新作『マングルホーン/Manglehorn』のレビューでした。評価の難しい映画で、どうしてもデヴィッド・ゴードン・グリーン監督にはアノ『ジョー』を撮ったということで甘くなっているのかもしれません。普通に考えればかなり退屈な映画ではあると思うのですが、やはり人を描くのが上手いのでしょうか、文句言いながらでも最後まで観てしまいました。ちなみに本作にはドラッグ密売人役に『KIDS/キッズ』の脚本家であるハーモニー・コリンが出演しており、本気で殴りたくなるようなバカを熱演していました。そして音楽はポスト・ロックの雄、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイが担当しています(彼らのウィキに日本語版がないのはどういうことか)。まあ、やっぱり退屈でしょうが、それもまたいとをかし。以上。

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