トム・ハーディ主演『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』レビュー ★★★★

NewImage『マッドマックス 怒りのデスロード』の主演に抜擢されたトム・ハーディ主演『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分/LOCKE(原題)』のレビューです。全編が車を運転するトム・ハーディの一人芝居によって構成された作品ながらも、スティーブン・ナイトによる練りこまれた脚本によって緊張感が途切れなることはない。スピルバーグの『激突!』やダンカン・ジョーンズの『月に囚われた男』を彷彿とさせる密室劇の快作。

『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分/LOCKE』

2014年英国公開作品/2015年6月日本公開

監督・脚本:スティーブン・ナイト

音楽:ディッカン・ヒンチリフ(元Tindersticks)

出演:トム・ハーディ、ルース・ウィルソン(声)、トム・ホランド(声)、オリヴィア・コールマン(声)など

ストーリー

バーミンガムの建設現場で責任者として働くアイヴァン・ロック(トム・ハーディ)は仕事を終えて車に乗り込んだ。家で待つ妻と息子は今夜行われるサッカーのビックマッチを一緒に観戦するために、アイヴァンの帰りを待っている。そして明日は建設現場に持ち込まれる大量のコンクリートを現場責任者として処理するという重要な仕事が待っている。

明日のために早く家に帰り家族と過ごすことが最善のはずが、しかし、アイヴァンは 自宅とは全く違うロンドンに向け車を走らせる。

そしてアイヴァンはある決意のもとで、仕事先に明日は現場に行けなくなったことを告げ、家族にも今晩は帰られないことを打ち明ける。様々な電話相手のそれぞれから困惑され、非難され、請願され、拒否され、罵倒されるもアイヴァンは一人で車を走らせる。

一人だけの車内で、子供の頃に自分を捨てた父の幻影と格闘しながらアイヴァンは全てを捨て去る覚悟で、自分の決心と、そして背負うべき責任とに向き合いながら、孤独なドライブを続ける。

レビュー

そこにもう一人の自分を探す密室一人劇:

きっと本作は「トム・ハーディの一人芝居」映画と紹介されるだろうし、実際に、80分少しの本編ほとんどが車を運転する彼を映している。その意味では同じイギリス映画のダンカン・ジョーンズ監督作『月に囚われた男』や2013年のロバート ・レッドフォード主演『オール・イズ・ロスト』などの出演者が一人という設定の映画が思い出されるし、車内における密室劇となればスピルバーグの『激突!』とも重なる。

しかし本作はそれらの映画とはそもそも全く違う構造となっている。

出演者が限定された物語において、その主役は何も知らない存在として描かれる場合が多い。『激突!』で主人公は自分を執拗に追いかける巨大トレーラーの意図を理解できないし、『オール・イズ・ロスト』のロバート・レッドフォードも然り、自分を追い詰める大海原の意図などもちろん知らない。そのような設定の一人芝居においては、状況に翻弄される主人公の想像もつかないような結末に向けて物語の緊張感は高められていく。そのために物語には常に「予期せぬ出来事」が必要となるのだ。その「予期せぬ出来事」に翻弄され、戦い、泣き喚くその姿が「一人芝居」映画という場が限定された映画の緊張感を緩ませないためには必要とされる。

しかし本作は違う。主人公は最初から全てを知っている。これから起きるであろう様々な困難や苦悩を最初から全て理解している。確かに本作でも主人公が「予期せぬ出来事」も起こるのだが、それは物語上とても小さなプロットでしかない。少なくともその「予期せぬ出来事」で主人公は絶望などしない。なぜなら状況が最悪であることを主人公は最初から知っており、それを知らないのは我々観客の方だから。

本作をネタバレせずに語るのは難しい。なぜなら物語の「ネタバレ」と呼べそうな事実の暴露は物語の序盤であっさりと行われるのだ。そのため本作にはサスペンス的要素はほとんどない。「一人芝居」映画としては異例であるが、次に主人公がどうなるのか、どういった試練を受けて、どのようにしてそれを乗り越えるのか、という様式によって語られる映画ではない。

トム・ハーディが演じる主人公は「善き男」である。過去のトラウマを教訓として自分の人生に活かせる人物であり、家庭にも仕事にも恵まれている。そんな彼がたった一つの過ちのせいで、家族も仕事も全てを失うまで追い詰められるのも、彼自身が「善き男」であることに起因する。人生における優先性について「仕事か家族か」という二択問題があるが、この場合、主人公の人生において選ばれるべき選択肢とはこの二つではない。それらは判断の結果であって、決して判断の対象ではないのだ。故にその両者を選ばないという判断も彼には存在する。彼にはそのさらに上位にある絶対的な判断基準として「正しいか誤りか」という行動規範があり、勘定可能な損得問題ではなく、言い換えればそれは行為の美醜にまつわる問題なのだ。だからこそ周りの人々には彼の決意がなかなか受け入れらない。ある者は罵倒し、ある者は拒否する。なぜならこの主人公の判断こそが、その周囲の人たち(観客を含める)にとっての「予期せぬ出来事」なのだ。

この映画は確かに「一人芝居」なのだが、決して観客を遠くに置いた映画ではない。観客もまた遠くの世界の、理不尽な状況に翻弄される主人公の一喜一憂を他人事のように見過ごすことはできない。本作では混乱した主人公が父親の幻影に向けて独白を繰り返すのだが、それはもちろん我々に向けての言葉でもある。時折、主人公がバックミラー越しにカメラに向けて話しかけるように演出されるのはそういった意図の反映であり、我々の反応を見つめているようにさえ感じる。過ちを冒すことがことが問題なのではない。過ちは冒されるもで、重要なこととはその過ちに対して自分が為すべき責任を全うしているのかということだと本作は問いかけてくる。

トム・ハーディの姿しか映らない「一人芝居」映画であるが、この映画の本当の評価とはその実験性にあるのではなく、主人公が幻視する相手として観客自身の姿をその後部座席に見出せられるかにかかっている。その意味では本作は前述した「一人芝居」映画よりも、密室劇として観客が13人目の陪審員であることが求められる『十二人の怒れる男』に近い。

非常に挑戦的な快作だった。

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ということでトム・ハーディ主演『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分/LOCKE』のレビューでした。ここではネタバレしません。というのもネタバレ部分が重要だからという理由ではなくで、逆にネタバレとか全くどうでもいい作品だからです。それにしても最近のトム・ハーディは素晴らしいです。すでに本サイトで紹介済みの『ドロップ/THE DROP』でも彼の演技は素晴らしかったですし、本作でも彼の決意とその代償をめぐる感情の高ぶりを非常にうまく表現していました。『マッドマックス』の公開に合わせてこれらも日本に持ってきてもらいたいものです。個人的には本作をもってしてトム・ハーディを「目が離せない俳優」とさせていただくことにしました。ちなみに音楽は一体どれほどの人が知っているのか不明ですが元ティンダースティックスのディッカン・ヒンチリフが担当しています。バーミンガム繋がりでしょうか。

とにかくオススメです。

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