【映画】ジェレミー・レナー主演『キル・ザ・メッセンジャー』レビュー 

ジェレミー・レナー主演『キル・ザ・メッセンジャー/Kill The Messenger』のレビューです。CIAがアメリカへの麻薬密輸に関与していたスキャンダルを暴くも、その後謎の死を遂げた実在のジャーナリスト、ゲイリー・ウェブをジェレミー・レナーが熱演する社会派ドラマ。「Too True To Tell/真実であるために口にできない」という劇中の言葉は、現代にも重要なメッセージとなっている。日本公開は未定。

Kill the messenger poster

■ストーリー■

90年代半ば、地方紙サンノゼ・マーキュリー・ニュースの記者ゲイリー・ウェブは、ある日、謎のラテン系美女から衝撃の内部資料を入手する。そこには中米ニカラグアでの親米政権樹立に向けて、CIAが秘密裏に親米派の反体制勢力「コントラ」の資金を捻出するために、ニカラグアから仕入れた大量のコカインをアメリカ国内で売りさばくことを支援していたことが示唆されていた。

当時アメリカで社会問題になっていたコカイン・クラックの蔓延に国家組織であるCIAが関与していたという衝撃の情報に、ゲイリー・ウェブ本人も最初は半信半疑だったものの、その後の取材によって、徐々にそれが事実であると確信するようになる。

関係者たちへの取材を進めるゲイリー・ウェブは、単身で投獄中のマフィア関係者とも接見し、その情報が真実であることを裏付けるも、同時にウェブはこの情報は「Too True To Tell/真実であるために口にできない」存在だとして、情報を秘匿するように様々な圧力を受ける。

しかしジャーナリストとしてその情報は国民が知る権利を有すると判断した彼は、1996年ウェブ上に『ダーク・アライアンス/暗黒の同盟関係』と題したスクープ記事を掲載。瞬く間にそれは全米に広がっていく。

しかしゲイリー・ウェブの本当の戦いはここから始まった。大手新聞や他のメディアは、その記事の内容を否定する政府の見解を支持しウェブを非難。やがては同僚も手のひらを返したように彼に冷たくなっていく。

真実に正直であろうとしたゲイリー・ウェブは、自分の身だけでなくその家族にまで危険が及ぼうとする状況の中に放り出されてしまう。

■レビュー■

『アベンジャーズ』でのホークアイ役でも知られ、2度のアカデミー賞ノミネート経験も持つジェレミー・レナーの初プロデュース兼主演作でもある本作は、ジャーナリズムの本質、ひいては国家が情報を国民に秘匿する権利の是非を問う骨太の社会派映画となった。

1979年、ソ連をはじめとする共産圏からの支援を受けた反米サンディニスタ政権が中米ニカラグアに成立すると、その打倒のためアメリカは傀儡政権樹立に向けて反政府組織「コントラ」を秘密裏に支援。一方、同時期にアメリカではコカインが大量に流通し、それを加工したクラック・コカインが蔓延、社会問題となる。

一見、別々の問題のように思えたこれらが、実はCIAの関与によって繋がっていたことを、1996年にゲイリー・ウェブは公表する。CIAは、ニカラグアから大量のコカインを受け入れ、それを国内で売りさばくことで「コントラ」の活動資金捻出に加担していたのだった。国家組織が非合法の薬物を率先して国内に流通させるという大スキャンダル。それを暴いたジャーナリスト、ゲイリー・ウェブは本来ならば賞賛されるべきはずが、同業者からの激しいバッシングに合い、やがてはうつ病を発症、そして公式の検死報告で「頭を二度銃で撃ち抜いて自殺」という何とも不可思議な最後を迎えることになる。

本作では実在の悲劇のジャーナリストをジェレミー・レナーが熱演。他にもレイ・リオッタ、オリバー・プラット、アンディ・ガルシアなど出演し、緊張感が途切れることはない良質な社会派ドラマを形成している。

この作品のなかで特に印象的なのが、この衝撃の真実の公表を巡ってゲイリー・ウェブに思いとどまるよう説得するCIA職員が呟く「Too True To Tell/真実であるために口にできない」というシーンだ。この一言に、日本で盛んに議論されるも政治的にはなし崩し的に成立した「秘密保護法案」が思い出される。国家が国民に対して「Too True To Tell/真実であるために口にできない」情報を秘匿することを認めることの危険性が、本作では実際に起きた事例として紹介されている。

また同様に、危険な立場に追いやられることを恐れずに真実を公表したゲイリー・ウェブを最も激しく追い込んだのは、同業者の大手メディアだという事実も忘れられない。真実の意味や価値よりも、他社よりも早くスクープすることに血眼になる記者たちの態度が企業メディアが陥りがちな罠であるということは、日本の朝日新聞の誤報問題や、自社の姿勢を棚に上げた状態での朝日叩きに熱心になる同業他社の姿からも世界共通のようだ。ジャーナリズムのあり方を描いた1999年の映画『インサイダー』でアル・パチーノ演じるテレビプロデューサーが言い放った「お前はジャーナリストなのか、それともビジネスマンなのか」という言葉で表現されるように、ジャーナリズムが営利企業でもあるという矛盾が、国民にとってどれほどの不利益となるのかということを深く考えさせられる。

本作はアメリカの恥部を描いているため全米でも驚くほどに小さな規模での公開となり、ほとんど話題にもならなかった。しかし映画のラストに、在りし日のゲイリー・ウェブ本人が家族と団欒する映像が流されることでもわかるように、これは全く真実の物語で、事実、ひとりの、その使命に忠実だったジャーナリストは、最終的に”何者かに”殺されたのだ。彼の死をめぐっては二度頭を銃で撃つという、自殺としてはあり得ない検死報告がなされており未だに謎な部分が多い。だが、例え彼が自殺であったとしても、その状況に追い込んだのは国家でありメディアであるという事実は変わらない。

本作は20年前の実際の出来事の映画化作品であるが、同時に、現在も変わらないジャーナリズム、そして国家が孕む情報をめぐる危険性に警鐘を鳴らしている。そして何よりも重要なことだが、本作はドラマ映画としても非常に良質な作品に仕上がっている。現在の日本において、この映画の持つ意味は非常に深く、そして重い。

Kill the messenger

ということでジェレミー・レナー主演『キル・ザ・メッセンジャー/Kill The Messenger』のレビューでした。真実の物語ということもあって今回はネタバレ解説はいたしません。本作は海外の評価サイトでも高得点を叩き出していますが、内容が災いしてか劇場公開規模は小さくヒットには恵まれませんでした。それでも初プロデュース作品に本作を選んだジェレミー・レナーの男気には大拍手です。全米でも話題とならなかっただけに日本公開は期待薄ですが、どこかの配給会社が男気(女気でも可)を見せて劇場公開まで漕ぎ着けてくれないものかと期待してしまいます。それほど現在の日本において価値ある作品ですし、何よりも映画として良質の社会派ドラマに仕上がっています。

絶対に見逃し厳禁のおすすめ作品です。

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