映画レビュー|『イット・フォローズ』-性感染する新感覚ホラー

2014年のカンヌ映画祭で賞賛された低予算ホラー映画『イット・フォローズ/It Follows』のレビューです。セックスによって幽霊が伝染するという理不尽な恐怖を描いた本作。2015年最凶ホラーとの呼び声に恥じない、じわりじわりと逃げ道を囲われるようにして襲いくる壮絶な恐怖体験。ネタバレページあり。

It follows main

『イット・フォローズ/It Follows』

全米公開2015年3月13日/日本公開2016年1月8日/アメリカ映画/100分

監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル

脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル

出演:マイカ・モンロー、ケール・ギルクリスト、ジェイク・ウェアリー他

あらすじ

19歳の少女ジェイはボーイフレンドと初めてセックスした直後に彼から車椅子に縛られてしまう。そこで彼女は彼氏から信じられない告白を受ける。今、セックスしたことで幽霊が襲ってくるようになる。やがてそれは君を殺してしまうかもしれない。その呪いを解くためには他の誰かとセックスをして幽霊から狙われる対象を移さなければならない。そしてジェイは人気ない場所で自分たちに近づいてくる怪しげな人物の姿を目にすることになる。

その場から去ったジェイは、その後も奇妙な人物から付け回されるようになる。それは急に襲ってくるではなく、じわりじわりと歩いて近づいてくるも、他の人には見えていない。

誰かとセックスしなければ逃げられない恐怖のなか、ジェイは孤独と猜疑心のなかで、逃げられない恐怖から抜け出そうともがき苦しむ。

レビュー

徐々に、しかし確実に迫り来る、理不尽な恐怖:

自分の身に降りかかった恐怖を振り払うには、それを誰かになすり付けなければならない。不幸の手紙に象徴されるように、この手の恐怖とは人間の利己主義とその罪悪感のジレンマを強く刺激する。そこに匿名性の高さ故にいつかは自分にまた戻ってくるのかもしれないという恐怖が加わり、伝染すればするほどに逃げ道が閉ざされていくという自縄自縛の心理状況は、それが人間の集団心理と呼応すれば銀行さえも潰してしまうほどに恐ろしい。

本作『イット・フォローズ/It follows』はタイトルにある通り、「それに付け回される」恐怖を余すことなく描いている。最初から最後までひたすら不穏な空気のなか、それがいつどこからやってくるのかわらかない恐怖と休みなく向き合わなければならなず、そして「It/それ」が一体何なのかも全くわからない恐怖とも対面しなければならない。対象はわからないが、その伝染経路だけはわかっている。それはセックス。

睡眠、食欲、性欲の3大欲求のなかでも、睡眠はホラーの世界と深く結びつく。眠りは無意識と無抵抗の状態を生み、なおかつ抗えないものだから、恐怖の舞台としては非常に活用しやすい。それに比べて性欲とは、行為そのものの特殊性から主に暗喩としての恐怖やトラウマの対象となっていた。セックスを描くことで、もしくはそれを模した行為を描くことで、その奥にある別の恐怖を描く。クローネンバーグやラース・フォン・トリアーの映画にはそういった傾向がはっきりと見て取れる。しかし本作はそういったメタファーとしてのセックスを描いた作品ではなく、あくまでセックスは恐怖の伝染方法でしかない。

これだけ見ればアイデア一発のホラー映画と思われるかもしれないが、本作は荒れる若者の性習慣を揶揄するような内容では一切なく、至って真面目にめちゃくちゃ怖い作品となっていた。

セックスは食事や睡眠と違って一人ではできない。必ず相手がいる。そのため不幸の手紙などと違って匿名性は薄く、利己的な態度とそれがもたらす罪悪感のせめぎ合いは拮抗する。しかもそれが10代の少年少女ならば尚更で、セックスは決して軽々しく扱えない。相手の顔が見えるだけに、その恐怖は自分の逃げ道を確実に塞いでいく。そしてどこにも逃げ場がなくなった頃に、それは現れるのだ。徐々に、しかし確実に近寄ってくるのだ。

設定もホラー映画として新鮮ならば、途中からロードムービー風になったり、ティーンネイジャー特有の淡い恋心が描かれたりと、様々な非ホラー映画的要素が散りばめられており、こういった恐怖体験とは無縁な映像から一転し、それが迫ってくることになるため恐怖感は倍増する。また「幽霊/それ」は感染者にしか見えないという設定を逆手にとって、スクリーン上での映像は感染者視点なのか非感染者視点なのか混濁することも多く、何かが起きそうな時は目を薄く閉じていたいところだが、もしかすると重要な何かが写っているのかもしれないからしっかりと見ていると、「あれはそれなのかな、きっとあれはそれだよね」という思わせぶりな存在が気になって、はっきりとしない恐怖まで一緒になって体感してしまうことになる。

また舞台が廃墟の町デトロイトというのもいい。

理不尽で、確実に一歩一歩と迫ってくる恐怖。説明できない存在ゆえに、ただ逃げ惑うことしかできない。余計なものがないだけに、「それ」の不気味さが一層に際立つ極上の恐怖体験。「それ」はもしかすると今日も誰かを襲っているのかもしれない。

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ということで『イット・フォローズ/It Follows』のレビューでした。怖かったぞ。でも映画としての構成も非常に洗練されており、最初から最後まで常に何かしらの恐怖を感じることでできて、ただのアイデア一発ホラーとが違って監督の力量を感じることができました。一部では「性病ホラー」とか言われていますけど、そういう設定はあくまで恐怖の入り口で、そこからは良質のホラー体験を演出しています。そして最後の「甘酸っぱ恐怖」もなかなか気が利いています。これは最凶のデートムービーです(断言)。

※次のページでネタバレのストーリー紹介※

Summary
Review Date
Reviewed Item
イット・フォローズ
Author Rating
4
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