【映画】ベネット・ミラー監督作『フォックスキャッチャー』レビュー

『カポーティ』や『マネーボール』など実話ベースの映画化作品で高い評価を受けるベネット・ミラー監督最新作『フォックスキャッチャー』のレビューです。1996年にアメリカで実際に起きた大富豪によるレスリング金メダリスト殺人事件を、スティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロら意外性の高いキャストによって描いた本作は批評家からも高い評価を受け、87回アカデミー賞では監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞など5部門でノミネート。息苦しいまでの傑作でした。日本公開は2015年2月14日。

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■フォックスキャッチャー/Foxcatcher 2015年2月14日公開■

監督:ベネット・ミラー

脚本:ダン・フッターマン、E・マックス・フライ

出演:スティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、ヴァネッサ・レッドグレイブ

■ストーリー■ ※ネタバレなし

マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は兄デイブ(マーク・ラファロ)とともに1986年のロス五輪レスリングの米国代表として金メダルを獲得するも、社交的な兄とは対照的な性格が原因か、侘しく孤独な毎日を過ごしていた。

そんなある日、彼のもとに大富豪のジョン・ E ・デュポンから電話が入る。詳しい内容も知らされぬまま、マークはファーストクラスのチケットを渡され、デュポン家がペンシルバニアに所有する広大な邸宅に招かれ、そこでデュポン本人から彼がコーチを務めるレスリングチーム「フォックスキャッチャー」へ参加を破格の条件で誘われる。

デュポンはマークとともに兄のデイブも「フォックスキャッチャー」へ誘うも、しかしデイブは家族との時間を大切にしたいという理由からそれを断る。単身でペンシルバニアに向かったマークは、そこでレスリング中心の生活を送ることになる。

デュポンは不思議な男だった。異常に強い虚栄心と自己顕示欲、そして母親への歪んだ愛情を持つ彼だったが、大富豪という立場が彼を孤独へと押しやり、その異常な傾向を黙認することとなっていた。

しかし金メダリストでありながらも正当な社会的評価を受けていないと感じていたマークは次第にデュポンの捻れた哲学に心酔することとなり、やがては自分自身を追い詰めていくこととなる。

そしてデュポンとマークの関係は、兄デイブを巻き込むことで最悪の事態へと向かっていく。

■レビュー■

本作は第87回アカデミー賞5部門にノミネートされ、特に監督賞部門にベネット・ミラーが選出されたことはひとつのサプライズだった。近年のアカデミー賞には珍しく本作は作品賞ではノミネートを逃すも、監督賞にはノミネートされている。それだけ監督の演出が際立った作品となっている。

ベネット・ミラーはこれまで『カポーティ』や『マネーボール』と実話ベースの作品を監督し高い評価を受けている。本作もまた1996年に起きたレスリング金メダリスト、デイブ・シュルツ殺害事件を描いた実録映画であり、本国アメリカではメロン財閥とロックフェラー財閥に並ぶとされる大富豪デュポン家の長子が起こした事件だけに、その顛末を含めて有名な事件である。映画のジャンルとしてはクライム・スリラーと呼べるのかもしれないが、その結末は映画を観る前から広く知られたもので、「次に起こる何か」を小出しにすることで観客の緊張感を高めるタイプの映画ではない。あくまで、作品のトーンと演者の鬼気迫る演技によって緊張感を調節する、非常にコントロールされた作品だった。その点においてベネット・ミラーの手腕は高く評価される。

本編ではシーンのトーンを補完する役割として音楽はほとんど使用されておらず、代わりに息苦しいまでの無音状態が長く続く。特にオープニングでチャニング・テイタム演じるマーク・シュルツを追いかける一連のショットでは、劇中音楽を使用せずに彼が発する生活音だけを拾いあげることで、彼自身でさえも言葉で表現できないような鬱屈とした精神の曇りが完璧に表現されている。

またこれまで『40歳の童貞男』や『俺たちニュースキャスター』などのバカ映画で人気を博してきたスティーブ・カレルが、感情をまったく表情に表さず、唯一他者に伝えられる感情が結果としての「怒り」の発作であるというデュポンを見事に演じきった。ベネット・ミラーは前作『マネーボール』でもバカ映画育ちのジョナ・ヒルをアカデミー賞助演男優賞候補にまで育て上げ、今回はスティーブ・カレルを主演男優賞候補にまで導いている。

同時にアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたマーク・ラファロも素晴らしかった。親を早くに亡くしたためマークの育ての親となり精神的支柱でもあったデイブは、物語当初はマークとの対比によって物語の明暗の輪郭を際立たせていたが、実はデイブはマーク以上にデュポンとの対比において語られる役柄であることが徐々に明らかになる。こういった三者の人間関係の揺らぎがもたらす緊張感は、結末を知っているか否かは全く問題にならない。

二人の孤独者の物語。孤独者二人が互いの欠落を埋め合うことはない。そしてどれだけ金があろうともその隙間は埋められない。オリンピアの象徴と言われながらも、東京五輪以降では五輪種目から除外される可能性もあるレスリング。それは商業五輪の犠牲者なのかもしれないし、本作のラストシーンにレスリングの行く末を重ねずにはいられなかった。

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ということで『フォックスキャッチャー』のレビューでした。本作は実話ベースで、しかもかなり有名な事件ということもありネタバレ解説はしませんでした。結末を知っていてもラストはかなりの衝撃です。本作はとにかく3人の演技が素晴らしく、特にスティーブ・カレルは特殊メイクのためが全く別人に思えます。なお、チャニング・テイタムが演じるマーク・シュルツは事件後にアントニオ猪木が主催する格闘技大会に出演するなど数奇な人生を歩んでおり、この作品に関しても、特に自分自身の描き方に大きな不満を表明しています。

とにかくアカデミー賞5部門ノミネートだけあって見ごたえのある作品でした。「40歳の童貞男」と「マジック・マイク」と「ハルク」を足すと『フォックスキャッチャー』になるなんて、この数式を思い浮かぶのはベネット・ミラーくらいなもんです。おすすめです。

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