映画レビュー|『Dearダニー 君へのうた』-古くても良いもの

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アル・パチーノ主演『Dearダニー 君へのうた』のレビューです。40年前にジョン・レノンからの送られた手紙と巡り会うことで人生をやり直すことを決意したロックスターをアル・パチーノがコミカルに熱演。共演はアネット・ベニング、クリストファー・プラマーなど。アル・パチーノが「自分の出た映画を観て初めて泣いた」という、爽やかな感動と「古くても素晴らしい」音楽で包まれた幸福な映画。日本公開は2015年9月5日。

『Dearダニー 君へのうた/DANNY COLLINS』

全米公開2015年3月20日/日本公開2015年9月5日/アメリカ映画/107分

監督:ダン・フォーゲルマン

脚本:ダン・フォーゲルマン

出演:アル・パチーノ、アネット・ベニング、ボビー・カナベイル、クリストファー・プラマー、ジェニファー・ガーナー他

あらすじ(ネタバレなし)

スターとしての絶頂期を過ぎ、もう何年も新曲を書いていないダニー。往年のヒット曲さえ歌っていればハデな暮らしは続けられたが、どこか空しかった。そんな時、憧れのジョン・レノンからの手紙が届く。43年前、駆け出しの頃のダニーに書かれた手紙を、長年彼を支えてきたマネージャーが見つけたのだ。そこには、富や名声に惑わされず、音楽への愛情を持ち続けることの大切さが綴られていた。

ジョンの言葉に励まされ、人生を変えることを決意したダニーは、ツアーをキャンセルし、顔も見たことのない息子に会う旅に出る。予想通り息子からは激しく拒絶されるが、気立ての良い妻と可愛い孫娘を味方につけ、懸命に愛情を捧げるダニー。しかし、心を開きかけた息子は深刻な病にかかっていた。父として、そしてミュージシャンとしてもやり直すために、ダニーが選んだ道とは──?

参照:deardanny.jp

レビュー

Oldies but Goodies !!(古くても沁み入るもの):

アル・パチーノが「自分の出た映画を観て初めて泣いた」という本作は、久しぶりに名優アル・パチーノの力技が冴えわたる感動作だった。

2010年、イギリスのフォークシンガー、スティーブ・ティルトンのもとに一枚の手紙が届けられた。それは40年前に彼に宛てて書かれた手紙で、送り主はジョン・レノンとオノ・ヨーコだった。当時ミュージシャンとしてデビューしたばかりのスティーブは雑誌のインタビューで、音楽を続ける上でやがては有名になり金持ちになることが自分の音楽の価値を奪ってしまうことの恐怖感を語っていた。21歳の誠実なフォークシンガーとしてはかなり真っ当な悩みだったようだ。そしてそれをたまたま読んだジョン・レノンは若きスティーブのために手紙をしたためる。そこには先輩ミュージシャンとして、悩める若きミュージシャンへの激励と友愛の念がしっかり込められていた。しかしその手紙がスティーブのもとに届けられるのは40年という時間を要した。その手紙はレノンによってインタビューを掲載した雑誌に送られるも、そこからスティーブのもとには届けられず、コレクターの手に移っていたのだった。

本作『Dearダニー 君へのうた』はこの実際の出来事をベースにして作られている。ダニー・コリンズ(アル・パチーノ)は高齢になっても、過去のヒットナンバーを歌えばどの会場もファンでいっぱいになるほどの人気ロックミュージシャン。もう30年も曲を書かずに、昔の栄光にすがりながら音楽活動を続けている。昔の歌を歌えば金は尽きることなく儲けられる。彼は高齢になってもドラッグと酒と女に溺れたままのミュージシャンだった。

そんな彼に長年のマネージャーがサプライズのプレゼントを送る。それは今から40年前にダニー宛てに送られたジョン・レノンからの手紙だった。ダニーとっての憧れだったジョン・レノン。才能に溢れデビューしたばかりの若きダニーにとって、将来自分の音楽が成功によって台無しになることを恐れていた。その悩みに答えるように手紙には「これから君の音楽は、すべて君次第なんだよ、誠実であり続けよ」とレノンからの暖かい言葉が書き込まれていた。その時、ダニーの頭によぎった別の現在を想像するのは容易い。もしこの手紙を当時受け取っていたのなら、過去の栄光にしがみつくことも、ドラッグや酒に溺れることも、そして一度も会ったことのない息子を放っておくこともなく、今でも音楽を作り続けただろう、と。そしてダニーはこれまでのクソみたいな人生をやり直そうと決意し、再び曲作りを始め、そして初めて自分の息子とその家族に会うことにする。しかしそこには予期しない運命が用意されていた。

映画の冒頭には若きダニー・コリンズが登場する。そして彼のデビューレコードがターンテーブルに乗せられるのとリンクするように流れる声がライアン・アダムズだとわかった時点で、物語の後ろに流れる音楽からも耳が離せなくなる。権利関係が厳しいことで有名なジョン・レノン名義の曲も本作では絶妙のタイミングで使用されている。そして神経質そうな若きダニーの誠実さとは裏腹に、そこから描かれるのは現在のダニーの堕落ぶりだ。ドラッグと酒に溺れ、ステージで歌う曲もどこまでいってもダサい代物で、オールドスクールなフォークロックを愛するライアン・アダムズからしても、クソみたいな音楽なのだ。

オールディーズだからダサいのではなく、そこに歌う者の魂が全くこもっていないからダサい。アル・パチーノ演じるダニーもそのことには気がついている。そしてレノンからの手紙を手にしたことで、40年前の誠実だった頃の自分を思い出す。

「ここよりマシな場所を探しながら、目隠しで歩いている、振り向きもせずに」

ダニーが30年ぶりに取り組んだ新曲の歌詞の一部は、本作の全てを要約している。過去を後悔するのではなく光を探してわずかでも前に進むこと。それは30年間ただ同じ場所に留まり続けたダニーだからこそ理解できる人生の教訓だった。

『Dearダニー 君へのうた』の話自体は実話をベースにしたとはいえ、おとぎ話のようなものである。ロックスターが持つ光と影のイメージを誇張し、よくある「家族モノ」の難病系感動話に落とし込む。設定自体は反則ギリギリだが、そういった映画でこそアル・パチーノの演技は冴えに冴える。盲目の退役軍人だろうが、落ちぶれたロッカーだろうが、アル・パチーノの手にかかれば観客は彼らとどこかで出会ったことのあるような親近感さえ覚える。確かにスターロッカーという役を演じるにはアル・パチーノの歌唱力は十分ではないかもしれないが、過去に捨てた息子との関係をやり直そうとする老人の役と考えれば彼が適役となる。ここ最近、訳のわからないコメディなどで輝かしいキャリアを汚し気味だったアル・パチーノだが、やはり彼にはちょっと現実離れしたくらいの役柄がちょうどいい。

他にもアネット・ベニング、そしてダニーの長年のマネージャーを演じたクリストファー・プラマーも、本作のテーマのひとつでもある老成することの価値をうまく体現していた。それでも彼らの「オールド」な魅力を引き出したのは、その対としての若さを一人で担ったダニーの孫娘ホープ役を演じたジゼル・アイゼンバーグだろう。ADHDを患いながらも元気いっぱいに大人たちをかき回す彼女の存在がなければ物語は一気にシリアスになり、老いたダニーの「軽さ」も嘘くさくなったはずだ。

あらすじを読むと難病系の感動映画と勘違いされるかもしれないが、本作はれっきとしたコメディ映画。確かに感動的だが、それは決して涙の押し売りではない。気の利いたラストで幕が閉じた後、思わず古いカセットテープを取り出して昔好きだった音楽を聴きたくなるような、そんな映画だった。

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ということでアル・パチーノ主演の『Dearダニー 君へのうた』のレビューでした。こういう映画は大好きです。アル・パチーノの映画で久しぶりに感動したような気がします。俳優陣は全員素晴らしく、ホテルの係員まで愛おしくなってしまいます。そして劇中で往年のファンを目の前にダニーが歌うヒットナンバーのダサさは必見です。日本では2015年9月5日に公開されますのでお見逃しなく。以上。

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