【映画】2015年2月公開『はじまりのうた』レビュー

『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督最新作、マーク・ラファロ、キーラ・ナイトレイ共演の『はじまりのうた/Begin Again』のレビューです。再生を描いた大人の恋愛映画と思いきや、音楽を愛するものたちを描いた良質の音楽映画でした。SSW系の音楽が好きな人(筆者)にはたまらない作品です。

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■ストーリー■ ※ネタバレなし

舞台はニューヨーク。

過去には数々のヒット曲を手がけた音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)もここ数年は新しいミュージシャンの発掘に上手くいかず、レーベルのお荷物状態。そしてプライベートでも妻とティーンエイジャーの娘とは別居状態で、酒浸りの日々を送っていた。

ある日、ダンは酔った状態で娘を連れ立って出社し、そこでレーベルの代表からクビを言い渡されてしまう。自暴自棄になったダンはまた酒に溺れ、おぼつかない足取りで場末のバーにたどり着く。そこでバーボンを補充した時、バーのライブ会場から音楽が聞こえてきた。

シンガーソングライターのグレッタ(キーラ・ナイトレイ)は、長年の恋人であり音楽上でもパートナーだったデイヴ(アダム・レヴィーン/Maroon5)が大手の音楽レーベルと契約するのを機にともにニューヨークへやってきた。しかし華やかな世界に飛び込んだデイブは、仕事でロスアンジェルスへ行った際に、美人プロデューサーと浮気をしてしまう。怒りに任せてデイブのもとを飛び出したグレッタは親友でありパッとしないミュージシャンのスティーブの家に転がり込む。そしてスティーブは傷心のグレッタを出演予定のあったライブ会場へ連れ出し、サプライズで一曲だけ彼女に歌うように促す。

酩酊した状態のダンは、観客のほとんど興味を示していないグレッタの弾き語りを耳にする。そして一本のギターで奏でられたグレッタの音楽も、ダンにはオーケストラをバックにした最高のアレンジとして聴こえてきた。

グレッタの音楽に将来を確信したダンは彼女を売り込もうと口説きはじめる。最初は断ったグレッタも次第に興味を抱きはじめ、二人はデモの作成に着手する。

金のない二人はまずスティーブを巻き込み、ストリングス、リズムセクションとバンドのメンバーを集めていき、路上でのデモ録音を実行する。

やがて二人は最高の音楽を奏ではじめる。音楽によって傷ついた二人は、音楽によって生まれ変わろうとしていた。

■感想■

2007年の映画『ONCE ダブリンの街角で』で無名俳優ばかりの低予算でありながらも、最高の音楽映画に仕上げ、アカデミー賞歌曲賞の受賞にまで至ったジョン・カーニー監督の最新作は、『ONCE ダブリンの街角で』の尋常ではない感動と幸福感までには及ばないながらも、SSW(シンガー・ソング・ライター)系の音楽が好きな人にはきっと特別な作品になる良質の音楽映画に仕上がっていました。

本作は物語の在り方としては、恋愛映画である。過去の栄光を忘れられない男と、惨めな今から逃げだした女。そんな二人が音楽によって導かれ、互いの人生をやり直すために互いを必要とする。男は妻と別居中で、女はハンサムなミュージシャンンの彼氏と別れたばかり。これらの素材が目の前にあれば、誰だった恋愛映画を撮りたくなる。しかもマーク・ラファロとキーラ・ナイトレイというキャスティングで、男の娘役を演じるのはヘンリー・スタインフェルド。申し分ない布陣だ。しかし本作はただの恋愛映画ではない。誰かと誰かがくっ付くことが物語の最大の関心事ではない。劇中に散りばめられた音楽と、その一つの音楽が出来る過程に魔法のように生まれるケミストリーを、本作では丁寧に描いている。

一つの音楽のもとにバックグラウンドの異なるミュージシャンが集まり、音楽を奏でていく。その過程を時間軸を少しだけずらしては、行き来しながら見せるシーンは、映画で描かれる音楽シーンのなかでも特に印象的だ。最初はシンプルな素描だけあったのところに、ひとり、またひとりと楽器を持って現れ、そして音楽ができ上がる。その説得力は本物だ。日本で音楽を扱った映画では、実際の演奏シーンになると声をミュートにするという小細工を施したりするが、本作ではキーラ・ナイトレイも、もちろんアダム・レヴィーンもしっかりと歌っている。最初にキーラ・ナイトレイが弾き語る音楽は味気のない眠い曲なのだが、それが最終的には素晴らしい楽曲に磨きあげられていく。映画の冒頭で酔っぱらったダンだけに聴こえていたバンド編成の曲が、観客の前でもしっかりと演奏してくれるのだ。

本作は恋愛映画のようでいて音楽映画だ。そして音楽の素晴らしさや愛おしさがしっかりと伝わってくる。映画を見終わった後にはCDショップへ直行しサントラを購入せずにはいられなくなった。個人的には若い頃は色々な音楽を聴いていながらも、30歳を超えたあたりから聴く音楽のほとんどがSSWとなっているのだが、それがダンがグレッタのシンプルな音楽に魅かれた理由とリンクして、うん、うんと頷いてばかりだった。

そして本作に登場するスティーブをはじめとするバンドメンバーもみんないい奴でうれしい。音楽を好きでいるということ、金に魂を売らないということ、そんな不器用な連中による人間模様を最高の音楽に合わせて、是非ご覧下さい。

それでも日本公開は未定のようです。何度でも観たくなる映画でした。

追記:本作は「はじまりのうた」という邦題で2015年2月の日本公開が決定しました。

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17 件のコメント

  •  はじめまして。「ビギンアゲイン」で検索してこちらのサイトを知りました。

    詳しい記事のお陰で細かい部分が理解できました。どうも有り難うございます。

    実は、先週になりますが「ビギン アゲイン」を韓国で観ました。素敵な映画だったので2回観ました。
    英語のセリフに韓国語の字幕なので、細かい部分は理解できていないと思いながらも、
    映画そのものに惹きこまれ、ずっと幸せな気持ちで観れました。
    音楽も素敵だったのでアルバムをダウンロードしました。

    それと、韓国では「アンニョン ヘーゼル」と言うタイトルでしたが、もう1つアメリカ映画を観ました。
    (これも2回観ました)
    「アンニョン ヘーゼル」もこちらのサイトで内容を理解することが出来ました。
    原作がある事も何も知らなくて・・・・。
    この映画は客席のあちらこちらからすすり泣く声が聞こえて、私も2回目でもやはり泣けました。

    2作品とも日本公開を望んでいますが、特に「ビギン アゲイン」早く日本で観たいです。
    私はこの映画のDVDが欲しくて堪りません。

    長々と失礼致しました。 これからもレビュー参考にさせて頂きます。

    • hanryukoさん、コメントありがとうございます。
      おっしゃられる通り、この映画の幸福感は心地いいですよね。
      是非、『ONCE ダブリンの街角で』もご覧下さい。
      そして『アンニョイ ヘーゼル』とは『さよならを待つふたりのために』のことですね。
      こっちの世界中で大ヒットしてるので日本でも公開してもらいたいですね。
      これからもよろしくお願いします。

  • お返事有難うございます。そうです、もう一つの映画のタイトルは『さよならを待つふたりのために』です。
    今回アメリカ映画を2作品見て、「韓国マジック」が少し解けたようです。
    昔は洋画が大好きだったのです。それがここ数年韓国にハマっていて、そうすると、韓国ばっかりになるで、
    それを反省して、もっと広く、良いと思える映画をたくさん見ようと思います。

    • 韓国映画の躍進はもうブームとかじゃなくて安定して良作を出し続けてますもんね。
      それから本作は『はじまりのうた』という邦題で2015年2月の公開が決定したようです。よかったです。

  • 本当ですか!嬉しいです‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎ 「はじまりのうた」原題でも良さそうですが^^;

  • 一つお分かりになれば教えたいただきたいのですが、先日機内の映画でBeginAgainを見て、音楽が素晴らしい使われ方で感動しました。
    そして、早速サントラもDLしたのですが、この映画の中で、夜な夜な、二人で自分の好きな音楽をお互いに聴かせ合うシーンがありその中でかかっていた楽曲タイトルが全て知りたくて、音楽に詳しい方どなたか教えていただけませんでしょうか?

    • まことさん、はじめまして、執筆者です。
      ご質問の件、ふたりがヘッドフォンを分け合って聞いていた音楽についてですが、かなり記憶が曖昧で曲名までは思い出せないのですが、鑑賞中に私がとっていたメモを読み返すと、『タイムズスクエア』『シナトラ』とありますので、たぶん一曲はフランク・シナトラのクラシックなのだと思います。
      あと少年たちがBMXに乗っている傍らで二人で聞いていたのは、カサブランカの主題歌の『AS TIME GOES BY』のようです。カサブランカからは色々とセリフも借用されていました。
      今わかるのはこのくらいです。

  • 今日NYからの帰りに機内でbegin againを観てこちらのページにたどり着きました。流れる曲全て好きなものばかりで機内では何度も繰り返し見続けてました。わたしも音楽を聞かせ合うシーン好きで曲を探していたので教えて頂けてとても嬉しいです。あと他にそのシーンで流れていたのはfor once in my life スティービーワンダー?だと思います。

  • 度々すみません。もう1曲わかりました!!
    フランクシナトラ luck be a lady tonightだと思います。

    • chakoさん、はじめまして。
      スティービー・ワンダーの『for once in my life』とフランク・シナトラの『luck be a lady tonight』で決まりですね。
      あのシーンを見ると、Headphone splitterが欲しくなりますよね。
      貴重なコメントありがとうございます。

  • Chako様 前嶋様

    ご返信ありがとうございました。
    早速DLとCDを購入に、豊かな年末を迎える準備できました!

    ありがとうございました。

  • はじめまして。
    私も[Bigin Again]を検索していてこのサイトにたどり着きました。たまたま海外出張が続いたので、欧州行きと、
    シンガポール行きの両方で合計すると5回ほど見ました。

    本当に音楽が素晴らしくて、さっそくCDもAMAZONで注文できました!

    ありがとうございます。

    • mizuiroさん、コメントありがとうございます。
      この映画、飛行機の機内で見た人が多いですね。そしてそのままサントラ購入という流れも。
      先日は関係者向け試写もあったのですが、大変好評だったようで日本でのヒットにも期待がかかります。

  • はじめまして
    ミーハーですがbigbangのD-LITEがこの映画をお薦めしていたことからここに辿り着きました。
    最初は恋愛ものかな、と思いましたがそうではない気配、見てみようと思い始めました。
    2月の公開、楽しみです。

    • kazemamaさん、はじめまして。
      この映画は恋愛映画というよりも音楽を愛する映画となっていて、鑑賞後にはきっとサントラが欲しくなると思いますよ。
      おすすめなので、是非劇場で鑑賞してみてください。

  • 先日劇場で見て、いろいろ検索するうち、こちらのサイトにたどり着きました。
    ほんと素敵な映画でした。
    私もサントラ欲しい!スプリッター(というのかアレ)も。笑
    二人が聞いていた曲、気になっていたのですが、それもこちらにきて判明。
    すごく参考になりました。 ありがとうございます!

    • kazuumiさん、コメントありがとうございます。
      この映画のサントラはおすすめですよ。
      アカデミー賞の歌曲賞にもノミネートされていますから。
      また遊びに来てください。

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