映画レビュー|『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』-ゴッドファーザーを知る男の苦悩

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2014年のナショナル・ボード・オブ・レビュー作品賞に輝いた『アメリカン・ドリーマー 理想の代償/A Most Violent Year』のレビューです。ニューヨークの歴史上最も犯罪が多発した1981年を舞台に、ビジネス拡大を目指すなかで降りかかる様々なトラブルに翻弄される移民者の男をオスカー・アイザックが好演。共演はジェシカ・チャステイン、監督は『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』のJ・C・チャンダー。日本公開2015年10月1日。

『アメリカン・ドリーマー 理想の代償/A Most Violent Year』

全米公開2014年12月31日/日本公開2015年10月1日/アメリカ映画/125分

監督:J・C・チャンダー

脚本:J・C・チャンダー

出演:オスカー・アイザック、ジェシカ・チャステイン、デヴィッド・オイェロウォ、アルバート・ブルックス他

あらすじ(ネタバレなし)

統計上ニューヨークが最も危険だった1981年(ア・モスト・バイオレント・イヤー/A Most Violent Year)、石油販売業を営むアベル・モラレス(オスカー・アイザック)は海岸沿いの土地を買い占め、事業の拡大を狙っていた。そして土地の所有者であるユダヤ人に前金を払い、30日後に残りの金を支払うことで売買交渉は成立する。しかし期日までに残りの金を用意できなかった場合は、前金も土地も何もかも失うことになっていた。

一方でアベルには当局から脱税などの疑いも向けられており、一歩間違えば全てを失う危険もあった。

そんな時、アベルの石油トラックが何者かに連続し襲われ、石油を盗まれてしまう。続けて社員は襲われ、アベルの自宅にも不審者が現れる。そして社員による発砲事件など、アベルは様々なトラブルに見舞われ、やがては融資を約束していた銀行にも見捨てられてしまう。

アメリカンドリームの名に隠された光と影に翻弄されながらも、アベルは表と裏の世界の間で、微かな光の方へと走り続ける。

レビュー

1981年、『ゴッドファーザー』の結末を知った男の物語:

コーエン兄弟が監督した『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』の主演で脚光を浴びたオスカー・アイザックが、ニューヨークを舞台に、善と悪、表と裏、信頼と裏切りといった対立する想いの間に翻弄される一人の移民者を演じた本作『アメリカン・ドリーマー 理想の代償/A Most Violent Year』は絶品の犯罪ドラマだった。

話は1981年のニューヨークを舞台にしている。統計上ニューヨークで最も犯罪が多発したその年、強い上昇志向と、自分なりの「正義」を持った移民者アベルは、自身が経営する石油販売業の拡大を目指し、リスクを伴った契約を結ぶことになる。一世一代とも思える大きな契約だったが、交渉の成立を前に、彼の前には様々な問題が押し寄せてくる。その度に誰かを頼り、裏切られては、裏と表の世界の不鮮明な境界線上に放り出されていく。

ニューヨークを舞台に、ギャングの影がちらつき、一筋縄ではいかない当局、そして近しい人々たちの信頼と裏切りを描いたとなれば『ゴッドファーザー』などのスコセッシ風ドラマを想像しがちだ。実際にジェシカ・チャステイン演じるアベルの妻はギャングの娘で、アベルは裏の世界にもアクセス可能なことが繰り返し描かれている。しかし本作はニューヨークが舞台のクライムドラマでありながらも、マフィアやギャングの世界を描いた映画ではない。それはまるで『ゴッドファーザー』の結末を知った者が、その悲劇的結末から逃れながらも、それでも欲望の街ニューヨークでのし上がろうとする移民者の物語だった。

沿岸沿いに土地を持つことで安定的に石油の売買をコントロールできると睨んだアベルは、ユダヤ人が所有する土地を買い取ろうとする。その土地は彼にとって成功の土台でもあり、表の世界の象徴でもあった。しかし彼の商売を影で邪魔するものがいる。影からだけでなく、表からはアベルの疑わしい経営に注視している調査官もいる。結果、土地売買の交渉が暗礁に乗り上げてしまう。それは彼がこれまでに築き上げてきた全てを失うことを意味していた。銀行からの融資はストップし、短期間で巨額の資金を自分で用意しなければならない。簡単な方法は、妻の家族に泣きつくことだった。つまり裏の力を頼ること。そうすれば金の確保だけでなく、影で事業を邪魔する者の存在も明らかにでき、彼が抱える全ての問題は解決できる。しかしアベルは決してその方法は取らなかった。彼自身、何度もその誘惑に負けそうになるも、最後には表の世界に踏みとどまり続ける。それはまるでアベルが自身を『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネにを重ねているようにも見える。裏の世界に足を踏み入れ、それを行使し続けた結果、家族を失い、やがては自分自身さえも失っていくマイケル・コルレオーネ。

アベルは1981年に生きたのマイケル・コルレオーネだった。マイケルもまた裏の世界から足を洗おうとするするも、結局は裏の世界に戻っていく。アベルも過去には裏の世界と関わりがあったのかもしれない。公明な経営を謳っておきながら、影では怪しいことにも手を出しているのだろう。それでも彼には 表と裏を隔てる確固たる境界線があった。それは司法の基準ではなく、あくまで自分の信念だ。だから周りの人々にはなかなか理解してもらえない。妻から見てもアベルの信念には理解できない部分が多い。たった一度くらいなら、とアベルを 諭すも彼は頑として首を縦に振らない。それは一度でも裏の世界に染まった人間はそこから逃げ出せないという事実を知っているようだ。一度でも裏の世界に金を融通してもらえば、二度と表の世界に帰ってこれない。それはやがては家族も自分さえも失うことになってしまうことを知っていた。1981年という、ニューヨークが最も荒んだ時に生きたアベルは、そのことに気がついていたのだ。

125分という時間は決してスリリングに進みはしない。展開はゆっくりとし、登場人物の表情からその感情をじっくりと引き出している。しかしそれが退屈だなんてこれっぽっちも思わない。1981年という時代を考慮したざらついたフィルムライクな映像から一時も目が離せない。ラスト付近になって物語が一気に押し進められるのはいささか性急にも思えたが、オスカー・アイザック、ジェシカ・チャステイン以外にも一癖ある調査官を演じたデヴィッド・オイェロウォやアルバート・ブルックスなど、ひとりひとりの存在感によってドラマの緊張感が維持されている。

監督は『マージン・コール』でアカデミー賞にノミネートされ、ロバート・レッドフォードが圧巻の一人芝居を見せた『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』のJ・C・チャンダー。そして本作は並み居る強豪を抑えて2014年ナショナル・ボード・オブ・レビューの作品賞を受賞している。これまでの監督作の出来栄えを見るに、おそらく近いうちの彼の作品はアカデミー賞の水準まで到達するだろう。

そして主演のオスカー・アイザックは『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』以降、『エクス・マキナ』、そして『スターウォーズ』と話題作に次々と出演する理由も頷けるほどに、なかなか代わりの見つからない存在感を出していた。自分にだけ納得させるための「善人」、というハードルの高い人物設定をしっかりとこなしていた。おそらくは脚本や物語の理解力が非常に高いのだろう。

『ゴッドファーザー PART II』が公開されたのは1974年。裏の世界に踏み入れたマイケルの孤独で終わる名作も、1981年のニューヨークでは今とは全く違って観られていたのかのしれない。最も荒んだニューヨークの物語。それは『ゴッドファーザー』の結末を知った男の信念の物語でもあった。

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ということで『アメリカン・ドリーマー 理想の代償/A Most Violent Year』のレビューでした。日本公開は2015年10月1日に決定。クライムドラマとしては絶品です。本作で共演したオスカー・アイザックとジェシカ・チャステインは共にジュリアーノ音楽院の出身だそうで、ニューヨークとの関わりも深いようです。こぞっていい俳優たちが出ている映画は安心して見ていられます。2014年の映画として見忘れできない上質のドラマ。おすすめです。以上。

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