映画『42 〜世界を変えた男〜』レビュー “一体、何を怖がっている?”

 先日、NYヤンキースの守護神マリアノ・リベラが惜しまれながらユニフォームを脱いだ。ヤンキース一筋、積み上げたセーブ数はメジャー最多の652、そして彼の引退より全メジャーリーガーの背中に42の番号を見つけることは出来なくなった。

 「背番号42」がついに消える ヤンキース・リベラの引退で

 今回紹介する映画『42 〜世界を変えた男〜』はアフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーのジャッキー・ロビンソンを描いた作品。そして42という数字はそのロビンソンが付けていた背番号であり、1997年に彼の業績を称え全メジャー球団が42番を永久欠番と設定、その当時に42番を付けていた選手のみが引き続き背負うことを許された番号だった。そして最後まで残った42番の選手がリベラだったのだ。
 1940年代半ばの人種隔離政策が当たり前のように存在していたアメリカでの実話の物語。日本公開は2013年11月1日。もしヤンキースがワールドシリーズに出場しイチロー選手や黒田投手が活躍でもすれば最高の公開タイミングだったのだが。
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ストーリー:第二次大戦後のアメリカ、白人と黒人の権利が不平等だった時代、白人用のトイレを黒人が使えなかったのと同様にベースボールも白人のリーグと黒人のリーグに分かれていた。 
 1947年、ブルックリン・ドジャースのゼネラルマネージャーのブランチ・リッキーは変わりつつある時代にいち早く対応しようと黒人の選手を迎え入れることを決意する。周りの反対を押し切る形でリッキーは、黒人リーグで活躍していたジャッキー・ロビンソンを招集し、まずは傘下の下部リーグのモントリオール・ロイヤルズでプレーさせることにする。契約に際してリッキーはロビンソンに一つの条件を突きつける。それは今後どれほど汚い野次や差別を受けようとも絶対に仕返ししないこと。大学にも通っていたジャッキーにとっていわれのない差別を前にして黙っていることは簡単ではなかったが、リッキーの説得に応じ、契約書にサインをする。 
 そして様々な差別を受けながらも、マイナーリーグで好成績を残したジャッキーは1947年とうとうメジャーリーグのブルックリン・ドジャース一員としてメジャーリーグのグラウンドに黒人としては初めて立つことになる。しかしそれからも観客や相手選手、そしてチームメイトからも差別を受ける続けるジャッキーは悔しさを押し殺しながら黙々とプレーを続ける。

感想: 差別問題を主題とした実話映画、と言えばハリウッドで定期的に作られるよくある感動物語のとしてスルーさせる方も多いのかもしれないが、本作はそういった感動の押し売り映画とはひと味違った見所に溢れる良作だった。
 まずゼネラルマネージャーのリッキー演じるハリソン・フォードがいい。今年でなんと71歳になるハリソン君。もともと感情の機微を演じわけるタイプの器用な俳優ではなかったが、今回の役どころではボーとして人を喰ったような地の雰囲気が、物語内で描かれる事態の深刻さを違ったベクトルで中和してくれている。胸の奥深くにある信念を隠しながらのらりくらりとする感じが絶妙だった。ここ最近、ハリウッドの俳優たちの世代交代がぐっと進んで、例えば『LA.ギャング・ストーリー』のニック・ノルティーや『マン・オブ・スティール』のケビン・コスナーなどそれまでのイメージから一歩踏み込んだ癖のある役を演じるようになっている。
 またスポーツ映画としての野球のシーンにおけるリアリティーの面では、 例えばサムライミ監督ケビン・コスナー主演の『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』には及ばないものの、ジャッキーが執拗な内角攻め受ける場面の映像は新鮮だった。
 そして白人による黒人差別の背景にある無知と恐れについてしっかりと描かれている点も評価したい。 とにかくこの映画で差別する白人の姿は滑稽で無教養に描かれている。現代では絶対に使うべきではないような言葉を罪悪感もなく吐き捨てる彼らの姿には怒りを通り越した憐れみさえ感じる。そしてストライクをなかなか投げようとしない白人投手にジャッキーが問いかける。

 一体、何を怖がっているんだ?

 差別の本質には対象への恐れがある。無教養であるがゆえに他者とは何かとも知らずにただ恐れた結果、排除し罵る。こういった一見するとよくわからない無知のサイクルが野球という馴染み深いスポーツを土台にするとはっきりと映し出される。そしてどうすればその無知のサイクルから抜け出せるのかも。

 この映画はほぼ史実に忠実なためネタバレ云々は無意味なのだが、映画の後半に南部出身のチームメイトがジャッキーのために取る一つの行動は本当に胸を打つ。これがフィクションなのではなく現実に起こったということにも感動する。 
 日本でもバレンティン選手がホームラン記録を塗り替えようとするときにそれを否定するような言動を取った人たちがいる。彼らはこの映画を見て、一体何を思うんだろうが。一体、彼らは何を恐れていたのだろうか。 
 この映画はただの感動の実話物語ではなく、今の我々にこそ訴えるかける物語であり、野球映画としても、史実ものとしても、はたまた感動物語としても様々な見方が出来るいい映画でした。ただ惜しむのはチームメイトや他球団の選手、特に元々はチームメイトでありながらジャッキーを重用することに反発してピッツバーグに移った選手の、ジャッキーがグラウンドに立つことで生まれた、感情の揺らぎのようなものをもっとしっかり見せてもらいたかった。それが出来ていればラストシーンはもっと生きたと思う。
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 日本公開は11月1日。野球ファンは必見でしょ。

映画『42 』輸入版

 

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