【映画】『それでも夜は明ける』レビュー

第68回アカデミー賞作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』のレビューです。映画を通して過去を見直すことの意味を痛感させられた傑作でした。2014年3月7日日本公開。

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・ストーリー

南北戦争以前の1841年、自由黒人でありニューヨークでヴァイオリン奏者として活動していたソロモンは、ある日見ず知らずの二人の白人男性から仕事の誘いを受ける。そして仕事を終えて彼らと食事をしていると、ソロモンは意識を失い、気がつくと体は鎖で繋がれていた。そしてそのまま黒人が白人の所有物として家畜同様に扱われていた南部に売り飛ばされてしまう。

人権など何もない南部ルイジアナで激しい虐待に晒されながらも家族との再会を信じて生き抜いた1人の男の12年間の物語。

・レビュー

あらゆる映画においてそこに登場する人物は常に現実的な“誰か”である。ホラー映画で最初に惨殺されるちょろい人物も、スポーツ映画で奇跡の大逆転をおこす選手も、人類を救うヒーローも、理不尽な現実に打ちのめされる黒人も、そして凡庸な悪に支配されているとも気付かずに同じ人間を家畜のように蔑む者もまたこの社会に暮らす“誰か”なのだ。

『それでも夜は明ける』は辛い映画だ。罪なき人々が救いを求めながらも虫けらのように死んでいく。良心や倫理は説得力を持たず、仮に存在したとしても一方的な論理によってかき消されてしまう。どれだけ血を流し、肉が切り裂けようとも救いはない。ただひたすら死ぬまで働かされ、死ぬことでしか安息が訪れない暗黒の世界。そしてそれが19世紀前半のアメリカ南部に暮らした黒人にとっての揺るぎない現実でもあり、現在でも“誰か”にとっての現実なのだ。

この映画を感動的という言葉で表現するのはあまりに言葉足らずで想像力を欠いている。確かに主人公は最後には救われる。しかしこの映画の主題とは救われた彼の視点を通して、彼が出会った“誰か”の想いを代わりに語ることにある。それは南部に生まれ育った奴隷の“誰か”であり、黒人を人間とも考えなかった当時の大多数の南部白人の“誰か”でもある。

ある種の映画を観る時、我々観客の想像力はその共感性の深度と強度を試される。主人公の苦境からの脱出への感動とはこの映画において最も貧弱な部分での想像力の発露でしかない。野蛮で残虐な行為が法律で認められていた時代にあって、その権利を行使できる側にたった人間とは一体どうなってしまうのか、という問いは現実の我々にも向けられているのだ。もし仮にあなたがこの映画の舞台に白人として生まれた時、あなたは黒人をむち打つ白人にはならないと断言できるだろうか。黒人を気分が悪いときに殴りつける血が通っただけのサンドバッグとして扱うことはないと言い切れるだろうか。

最近多く見られる、観客を妄想的な多幸感で満たすだけの映画に慣れてしまっている人には不快に感じさえする映画かもしれない。本作では野蛮で残虐な過去が大きなスクリーンに映し出されている。過激な表現は“有害”だとする風潮からすれば敬遠されるのかもしれない。しかし繰り返しになるが、この物語に出てくる全ての登場人物は“誰か”でもあるのだ。

昨今の「はだしのゲン」を巡る表現問題を考えるに、その残酷さを嫌悪するだけで、その残酷さとはどこから来たのか、そしてその残酷さとは今の自分と全く無関係だと言い切れるのか、という問いを持たない人にこそ見てもらいたい作品だ。

優れた映画とはいくつもの視点を提供してくれるもの。本作は間違いなくそれに該当します。

また本作は監督のスティーブ・マックイーンも主演のキウェテル・イジョフォーも冷酷な奴隷主役のマイケル・ファスベンダーもアメリカ人ではないことも興味深いです。アメリカ人にとって最も掘り起こされたくない過去の汚点を外国人の手によって描いた本作ですが、ハリウッドはその作品に最高栄誉のアカデミー賞作品賞を与えたのです。その意味を日本人として噛み締めることを止めたくはないと思います。

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ということでアカデミー賞作品賞の出来映えは間違いありません。ただし一本の物語としてみた場合には、最後のオチの部分があまりに神懸かりすぎていて突拍子もない印象です。出口のない悲劇を演出するためでしょうが、もう少し最後の救いに関連するようなプロットが前半部に欲しかった。後半にある人物が登場した瞬間にエンディングが透けて見えてしまいます。まあ、これは事実であるので仕方ないのでしょう。

ということで是非とも本作は早送りが出来ない劇場で観てください。

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▼スティーブ・マックイーン監督作、マイケル・ファスベンダー主演▼

▼キウェテル・イジョフォー出演作▼

▼マイケル・ファスベンダー主演作▼

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