映画『フレンチ・ラン』レビュー:映画がオルタナティヴな事実になるとき

French run

『パシフィック・リム』イドリス・エルバがCIAのはみ出し捜査官を演じる『フレンチ・ラン』のレビューです。CIA捜査官とスリの天才がコンビを組んで、パリを舞台にしてテロ事件の真犯人を探して激走する。共演はリチャード・マッデン。

『フレンチ・ラン / Bastille Day』

日本公開2017年3月4日/アクション/92分

監督:ジェームズ・ワトキンス

脚本:ジェームズ・ワトキンス、アンドリュー・ボールドウィン

出演:イドリス・エルバ、リチャード・マッデン、シャルロット・ルボン、ケリー・ライリー

レビュー

いきなり激おこプンプンなイドリス・エルバ登場ではじまる映画『フレンチ・ラン』はアクション映画としては何てことはない標準的な作品と言えるのだろうが、物語内で描かれる事件の背景は現実世界と似通った「オルタナティブ」な問題を扱っていて、これがなかなか面白かった。

イドリス・エルバが演じるのは暴力的で無責任なCIA捜査官ブライヤー。ある夜、パリで爆弾テロが発生し、その犯人としてマイケルと名乗るアメリカ人の若いスリが浮上する。CIAはフランス警察とは別口で捜査を開始し、ブライヤーはマイケルを確保するが、彼は爆弾入りのバッグを盗んだだけで、テロリストではないという。マイケルの証言をもとに、爆弾入りバッグを持っていた女性の捜索を開始するも、ブライヤーたちは何者かに命を狙われることになる。

爆弾テロの真犯人は誰なのか?

はぐれもののCIA捜査官は真犯人を捕まえるため孤独なスリと即席のコンビを結成。しかしその背後には恐ろしい陰謀が渦巻いていた。

、、という内容の『フレンチ・ラン』だがアクション映画としては「よくある」映画の一つでしかない。建物の屋上での大捕物やカーアクション、そして銃撃シーンと必要なアクションは一通り揃っているのだが、そのどれもが作品の目玉になりきれていないし、カット割りも全然うまくない。

しかし本作は凡庸なアクション映画でありながらも、現在という視点を持ち込むことでグッと面白さが増すことになっている。

映画がオルタナティヴな事実になるとき

最近、アメリカ大統領トランプ様の顧問であるコンウェイ女史が、ホワイトハウス発のフェイク・ニュースについて「オルタナティヴ(代替的)な事実を示しただけ」とテレビで発言し世界中の爆笑をさらった。インタビュアーはすかさず「それって嘘でしょ」とツッコミを入れたがコンウェイ女史はその明確な違いを認識できていないようだった。

おそらくSF世界に親しい人たちはこの「オルタナティヴな事実」という表現に、現実世界を代替する異世界を思い出しただろう。この世界では太陽は東から昇るが、西から太陽が昇ってくる「オルタナティヴな事実」を抱える世界もどこかに存在するということは形而上学的には思考可能だが、それを政治番組で表明するとか正気じゃない。

よくもまあこんなアホを大統領顧問にしたなと思ったが、この「オルタナティヴな事実」という表現を『フレンチ・ラン』を見ながら思い出していた。「オルタナティヴ」とは「代替的」と訳されるが、イメージとしては二つある選択肢のもう一方というニュアンスが強い。つまりコンウェイ女史が、本来は一つしかないはずの事実にも「オルタナティヴ」な存在を認めるということは、彼女が世間一般で理解されているところの自然法則を信用していないか、そもそも理解していないかのいずれかである恐れがある。

『フレンチ・ラン』とは、そんな「嘘」を拠り所に権力が醸成されていくロクでもない現実世界と「オルタナティヴ」に繋がっている。

例えば本作の原題は『バスティーユ・デイ』で、物語ではフランスにとっての革命記念日である7月14日の「パリ祭」に発生するテロを描いているが、実際にこの映画がフランスで公開された翌日の7月14日の革命記念日にフランスのニースでテロが発生し多数の死傷者が出ている。そのためイギリスでのDVD発売時にはタイトルが変更されている。

そして何より本作が現実世界の「オルタナティヴ」だと思わせるのは、劇中で描かれるテロの原因とその手段にある。この部分を説明するとネタバレになってしまうので詳しくは映画を見てもらいたいが、偽ニュースをばらまくことで民衆の不満を「オルタナティヴ」な方向へと強引に集中させ、大衆を混乱させては扇動するというマッチポンプ式方法論を通して『フレンチ・ラン』は現実世界のオルタナティヴな物語になる。

嘘はどこまでいっても卑劣で醜悪な行為のはずなのに、現実では嘘つきが偉そうに威張り散らし、ひどい場合は最高権力者にまでなってしまうことがある。残念ながらこれはオルタナティヴな事実ではなく、はっきりとした事実としてこの世界に行き渡ってしまった。嘘を恥じる多くの人々にとってこの現状はほとんど理解不能で、この先一体どうなってしまうのか不安で仕方ないだろう。しかしそんな現実世界の「オルタナティヴ」な物語として本作はその解決までがしっかりと描かれている。

その詳細は是非とも劇場で目撃してもらうとして、やはり嘘つきは蜂の巣にしなきゃならないと思うのだ。

『フレンチ・ラン』:

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フレンチ ラン ポスター 10 06 52 102

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